キューバの英雄、ホセ・マルティ誕生168年

キューバでは多くの歴史上の人物や著名人の誕生日をお祝いするが、この人の誕生日は特別だ。

José Martí ホセ・マルティ(1853-1895)

Héroe nacional 国家の英雄の称号を持つホセ・マルティは、間違いなくキューバ国民の誰もが尊敬する人物だ。

マルティは、19世紀後半キューバのスペインからの独立に尽力した政治家であり、同時期のラテンアメリカ諸国へ大きな影響を与えた思想家であり、小説家であり、詩人であり・・・と、どのような人物だったかをここでざっくりと説明することができない程、多岐にわたって活躍し偉大な功績を残した。

ざっと生涯をたどると・・・1853年1月28日スペイン移民の両親の長男(妹が7人)としてハバナに生まれる。小学校を終えて美術学校在学中の1868年に第1次独立戦争が起こると、独立に賛成する立場で出版活動や独立派との交流を持ったことから1869年(16歳)に投獄されてしまう。のちにピノス島(現青年の島)に送還され、そこから1871年にスペインに渡る。スペイン滞在中には文学や法律、哲学などを研究し、この間にキューバの独立に言及する書物も出版もした。その後、文学活動を続けながらメキシコ、グアテマラを経て1878年にキューバに帰還、キューバでは10年続いた第1次独立戦争が鎮圧されたところだったが、マルティはキューバ独立を諦めることなく再び独立へ向けた活動を展開したため、亡命という形でまたしてもキューバを後にせざるを得なくなる。それからはスペイン、アメリカ、ベネズエラと転々とし1881年に多くの亡命キューバ人が滞在していたニューヨークへ移住し14年間暮らす。この間にはパラグアイ、アルゼンチン、ウルグアイの駐米領事を歴任するなどして政治活動を行ったほか、文学活動も続け彼の代表作となる多くの作品を執筆、発表した。

Edad de Oro「黄金時代」は子供向けに書かれた作品集、もともとはアメリカで出版された雑誌に掲載されたもの。キューバの子供達はみんなこの本の作品を読む。日本語版もあり

そうしながらもキューバへの想いは途絶えることなく、1892年にはキューバ革命党を設立、再びキューバへ向かう準備を開始する。1894年には革命資金を調達するためにメキシコへ赴き武器や船を確保するものの1度はフロリダからの出航に失敗、その後1895年ドミニカ共和国のサント・ドミンゴに寄港、Máximo Gómezマキシモ・ゴメスら同士と合流し同年4月についにキューバ東部へ上陸、第2次キューバ独立戦争の勃発となる。マルティも自ら戦闘に加わってオリエンテ県(現サンティアゴ・デ・クーバ州など)中心に各地でスペイン軍と激しい戦いを繰り広げる中、同年5月19日ドス・リオス付近(現グランマ州)で銃弾を浴びて落馬、キューバ独立を見ることなく生涯を閉じた・・・

と、42歳の短い生涯を実に濃く生きた人。マルティ自身または彼に関する書物や資料は膨大で多くは日本語にも翻訳出版されているけれど、それほど日本では知られていないかもしれない。でもマルティなしではキューバを語れないし、キューバを訪れたらマルティに会わない訳にはいかない。キューバはマルティの国だ。

キューバ革命を率いたフィデル・カストロもマルティを師と仰いでいた。現在の体制だけを見るとキューバを社会主義国家と簡単に括ってしまいがちだけれど、もともとフィデルは社会主義国家を目指していたわけではなくマルティの掲げる平等主義、ラテンアメリカ主義といった考えに同調して国をひとつにまとめようとしたと言われる。キューバ革命の思想=マルティの思想なのだ。

例年の1月28日、息子の学校でも子供達が揃って団地内のマルティの像まで行進

この国家の英雄、ホセ・マルティの誕生日1月28日は、祝日でこそないものの(祝日にしたらいいのに、と思う)全国で様々な行事、お祝いが行われ、数日前からメディアではマルティに関する報道が増える。毎年この日子供達は学校へ花を片手に登校し、学区の広場などにあるマルティ像まで行進をして花を掲げ、それから鼓笛隊の演奏やダンス、寸劇などの披露、といったことを全国すべての学校で行う。

ハバナでは誕生日前夜27日の晩、ハバナ大学に松明を持って集まりマルティに敬意を評してその思想にともしびを掲げながら行進する、といった前夜祭まである。これはマルティ誕生100年の1953年にハバナ大学の学生連盟の呼びかけによって始まったもので、その年の群衆の中にはフィデル・カストロもいた。そして同じ年の7月にモンカダ兵舎を襲撃してキューバ革命の戦いが始まったのだ。

例年のハバナ大学からの松明を持っての行進、大勢の人が参加するPhoto: Irene Pérez/Cubadebate

今年、マルティ誕生168年はコロナの影響でいつもの行事も縮小したり形を変えたりせざるを得なかった。「ハバナ大学の松明」も通常より早めの時間に、密を避けて限られた参加者のみで行われた。

今年の様子、一般の参加はなく学生連盟の学生らのみで行われた。ソーシャルディスタンスも十分にとって Photo: Endrys Correa Vaillant/Granma新聞

それでも、キューバ人のマルティへの想いは変わらない。ホセ・マルティは永遠にキューバの英雄だ。

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