ハリケーンイアン、キューバを襲う

先週、ハリケーンイアンがキューバを襲った。

キューバで起こりうる自然災害で、最も警戒されているのがハリケーンだ。過去数年に一度、もしくは年に複数回、ハリケーンが大きな被害をもたらしているが、そうした経験を生かして、キューバでは独特の防災システムを取り入れている。社会主義という特性を生かして、上層部から各組織への情報伝達や指示系統はシステマチックに徹底されていて、国民一人一人がその中に取り込まれ「命を守る」防災体制がとられているのだ。
ハリケーンの季節:キューバの防災

実際にキューバで生活するようになって、この防災システムがいったいどういったものかを実感することがこれまでにも何度かあった。2017年9月にキューバを襲ったイルマ。この時はキューバ東端から北岸を西へ向かってハバナも直撃、通過後何週間も日常生活に支障があるような大きな被害をもたらしたことは、未だ記憶に新しい。この時をはじめたとえそれがハリケーン級の嵐ではなくても、数日前から警戒体制が強められテレビなどでは気象関連の情報に多くの時間を割き、まだ何の天候の変化もない数日前から公共交通が運休されたり、学校が休校になったりするということがあった。とにかく「そこまでする?!」とも思える早め早めの避難や準備が徹底されているのには、いつも驚かされる。

さて、今回のイアン。

ハリケーンイアンの通過予報経路、ほぼこの通りの進路をとった。INSMETキューバ気象研究所HPより

ジャマイカ付近からキューバの南沖合を西に向かって接近中には、まだ熱帯低気圧だった。天気予報ではキューバの西端付近で、進路を北に変えPinar del Ríoピナール・デル・リオ州に上陸、通過して北岸に抜けフロリダへ向かう、とのことだった。キューバ西部のハバナを含む各州では9月26日(月)からは学校教育機関の休校や各公共機関が閉鎖となり、同日夜からはハバナでも公共交通機関が止まった。そして、キューバ上陸前にはハリケーンカテゴリー1となり、その後通過中にカテゴリー2、3と発達して、ほぼ予想通りの進路で9月27日(火)未明から同日午前中にかけて、ゆっくりとピナール・デル・リオ州を通り抜けていった。

日本に接近する台風と違って、この付近で発生するハリケーンは上陸しても勢力を弱めるどころか逆に強めて、速度も弱まり時に停滞して、長時間に渡って激しい雨風が続くから厄介だ。今回も明け方には抜けるだろうとの予報だったが、夜が明けてもまだピナール・デル・リオ北部に居続けて、昼前になってやっと去っていった。ピナール・デル・リオに住む人たちにとっては、本当に長く恐ろしい一夜だったことだろう。

ハバナではキューバ通過中よりも抜けてからのほうが、風雨が強まり翌日も1日嵐だった。我が家は築60年以上とはいえ比較的頑丈なコンクリートのアパートであることもあるが、イルマの時に比べて、感じる風雨はそれほどでもなかったように思う。それでも収まった後に外へ出ると、アパートのエントランスにある大きな木がなぎ倒れ、道路には大量の木っ端が散乱していた。ハバナ市内各所でも建物、街路樹等の被害がかなりあったとのことだ。

我が家アパートの前の倒れた大木、翌日には細かく切り分けて処分された

そしてハバナでも通過直後から停電が続いた。9月27日(火)夜には政府が発電所のシステム故障によりキューバ全土が電気のない状態、「発電ゼロ」に一時なったと発表。これにはさすがにゾッとした。それでなくてもここ数ヶ月の発電所の不具合や燃料不足による電力不足は深刻で、日常から計画停電の措置が取られている。それに加えてハリケーン被害による停電、「このまましばらく電気がないのでは・・・」と心配になった。

真っ暗なハバナの街。日系人会会長のFrancisさん撮影

でも、キューバの電電公社UNE(Unión Eléctrica de Cuba)は頑張った。

ハバナでは丸2日近くかかったものの、翌々日から徐々に復旧していった。我が家のあるアパートでも約48時間の停電ののちに電気がともると、「おおーっ!」とそこら中から声があがった。

テレビをつけると、イアンが直撃したピナール・デル・リオ州の惨状を映像で目の当たりにした。想像した以上に酷い。郊外の木造の家の多くは家ごと吹き飛び跡形もない。ピナール・デル・リオといえばキューバの名産品葉巻に使うタバコの葉の生産が有名だが、畑にあるタバコの葉を乾燥させる小屋も木っ端微塵といった状態だ。幸いタバコ栽培は9月下旬から始まったところでまだ種まき前だったり、苗床の状態だったりして大きな被害はなかったが、昨年収穫した葉を乾燥・発酵後に保存したものが浸水して台無しになってしまった農家もあったようだ。

吹っ飛んだタバコ乾燥小屋。Foto: Ronaldo Suárez rivas by Granma
屋根がすっかりなくなってしまった家。Foto: Adolfo Ricardo Fernández Bernal by Rasio Guamá

ピナールデルリオ州の被害状況を伝えるCubadebateの記事

世界遺産でもあり観光地として有名なViñalesビニャーレスも多大な被害を受けた。街のメインストリートには瓦礫や木っ端が散らかり、屋根が飛んでしまった家屋も見られる。訪れた人なら記憶にあるだろう、ビニャーレス渓谷を見渡せる展望台にあるHotel Jasuminホテルハスミンの屋根も見事になくなってしまっていた。せっかく観光客が戻ってきたところで辛すぎる光景だ。

渓谷を見渡せる絶好のポイントにあるホテルハスミンの無残な姿。
Foto: Lázaro Manuel Alonso by Facebook
観光名所インディオの洞窟へ向かう道も冠水した。Foto: Lázaro Manuel Alonso by Facebook

ハリケーン通過後の復旧はキューバの防災システムの一部であり政府や各機関はすばやい対応をとっているが、未だ被害の深刻だったピナールデルリオ州ではほとんど電気も復旧しておらず、Mayabequeマヤベケ州、Isla de la Juventud青年の島も含めて、被害状況もすべては把握できていないようだ。死者も数名でたとのことだが、正式な人数は発表されていない。

どんなに素晴らしい防災対策をとっていても自然の脅威には叶わない、と改めて思わせた今回のハリケーンイアンだったけれども、被害を最小限に止めるよう声を掛け合い情報交換して個人レベルで事前にできることをしたり、災害後に助け合って復旧に努めたりといった、キューバのいいところをチラッと垣間見ることもできた。

これから11月末までまだハリケーンシーズンは続く。「今年はもうどうかこれっきりにして下さい!」と祈らずにはいられない。

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