キューバの信仰

キューバの宗教について一般的にはスペインの植民地であったことからカトリック信者が多いとされるが、一方で同じくスペイン領であった他の中南米諸国の中でも最もカトリックが浸透しなかった国、とも言われている。これはキューバ革命が宗教を否定したためと思われがちだが、実際には革命政府は宗教の否定もカトリック信者の排除もしてもいないので、革命以前からの傾向や他の宗教の影響もあったようだ。

他の中南米諸国では原住民のインディヘナの人達までも敬虔なカトリック信者だったりするし、日常のあらゆる生活習慣にまでカトリックの影響が色濃くみられる。とある宗教が浸透する国や地域ほど、旅行をしていても「宗教は何?」と聞かれることが多いように思う。中南米でも同じ質問をよくされるけれど、その度に

「Atea(アテア)無神論者」

というと、多くの人はギョッと引いて怪訝な顔をし、中にはその場で神について説き始める人もいる。

ところがキューバでは同じ答えをしても「そっか」で終わる、もしかしたら「私もだ。」と同意される。他にもカトリックがあまり浸透していないことを示す例を挙げると、クリスマスが盛り上がらない。1998年革命後初めてローマ法王がキューバを訪問して以降12月25日が祝日になって、最近でこそツリーを飾ったり、街中のレストランの店員がサンタの格好をしていたりすることはあっても、他のカトリックの国に比べると断然地味なクリスマスだ。

ハバナの旧市街にあるカトリックの大聖堂、カテドラル

カトリックの他にキューバ人が信仰する他の宗教として挙げられるのが、アフリカ由来の宗教だ。これは植民地時代にアフリカから連れてこられた黒人奴隷たちが信仰していたものが、カトリックなど他の宗教と結びついてキューバで独自の発展をしたもので、いくつかの系統に分かれている。このうちハバナやマタンサスなど西部地域で多く信仰されているものはSantería サンテリーアと呼ばれ、これが広くキューバのアフリカ系宗教の総称のように使われることがある。で、大雑把にサンテリーアがどんな宗教かというと、

  • この世の全て想像した神Oldomareオルドマレの下に、Orishaオリーシャと呼ばれる複数の神がいる。起源となったアフリカの伝統的宗教では400以上のオリーシャが存在するというが、現在キューバで重要とされているのは12だけ。
  • オリーシャは、カトリックの聖人=Santoサントやギリシャ神話の神々に相当するようなもの。キューバにおいては黒人奴隷たちが植民地時代に隠れて自らの神々を信仰するため、各オリーシャにカトリックの聖人を割り当てるようになった。
  • それぞれのオリーシャは、自然界および人間界に及ぼす特性を備えている。また、祭日、好みの食べ物、色、数字といったものを持つといった個性がある。例えば・・・(以下カトリックの聖人、自然・人間界に及ぼす特性、色、祭日)

Ochúnオチュン:Virgen de la Caridad カリダッの聖母、川、愛と結婚とお金、黄色、9月8日
Changóチャンゴー:Santa Bárbaraサンタバルバラ、雷、太鼓と舞踊と情熱と男らしさ、赤と白、12月4日
Obataláオバタラー:Virgen de la Mercedメルセッの聖母、大地、平和と精神性と知性、白、9月24日

  • サンテリーアの信者はオリーシャが日常の全ての事象をコントロールすると信じ、これらの神々へ好み供え物を捧げたり、儀式を行って神々からお告げを受けたりして自らの道(人生)を良い方へ導いていこうとする。
  • 信者はそれぞれ自分にとっての「特別なオリーシャ」を持っており、自宅にそれを祀るための祭壇を作る。
  • 信者は直接オリーシャからのお告げを受けることはできない。Babalawoババラオという司祭に当たる人物がオリーシャの言葉を理解して信者に告げる。
  • 信者はオリーシャの力を使って自然界にある力と自らが備え持つ特性の奥にある力のバランスを健全に保つことに努め、最終的には自らの道を切り開いていく。

といった感じだけれど、実際には全くもって複雑でこんな簡単に説明できない。

一般宅にある祭壇、この日はサントの誕生日(修行を終えると信者として生まれ変わった日=誕生日がもうひとつできる)だったので少し着飾って。
同じく誕生日のパーティーでの捧げ物、オリーシャは甘いものが好き?!

ただ個人的にはギリシャ神話やマヤ文明の神々にまつわるお話と同じで、これらの神様たちの話は良くできた物語として興味深いし、キューバの歴史や文化を構成する一要素としてみるとなるほど、と思う部分もある。

ところで旅行者でもこのサンテリーアに触れる機会がある。

キューバで街を歩いていると、全身真っ白な人に出会うことがあるが、これはサンテリーアに入信するための修行中の人だ。サンテリーア入信のためには一定の儀式、通過儀礼を行っていくつかの厳しい規制を守りながら1年間の修行期間を過ごさなければならない。その1年間行う規制の一つが「全身白いものを身につけて過ごす」というもの。頭の先から足の先、持ち物までぜーんぶ白いので一目で分かる。

それから街の角、交差点の道端で動物の死骸を目にしてビックリすることがあるかもしれない。これはサンテリーアで行う様々な儀式で動物を捧げる=犠牲にすることがあるのでその残骸、といってもそうする理由があって「置いてある」のであって決してポイっと捨ててあるわけではない。

これは自宅内で行った儀式の残骸・・・

またサンテリーアに関わる音楽やダンスもキューバの伝統文化として見たり、聴いたりする機会があるかもしれない。

現在、サンテリーアを始めアフリカ起源のキューバで独自に発展をしたいくつかの宗教はカトリック以上にキューバに浸透しているともいわれ、黒人白人関係なく信者でなくてもその習慣や考え方の一部を生活に取り入れている人は多い。それにカトリック信者だったはずの人がサンテリーアに入信することも良くあり、それが完全な改宗というわけでなく、「どっちも信じる」という人がいたりする。また最近はサンテリーアビジネスなるものもあって、外国人でもサンテリア体験なるものができたりする。

オリーシャの祭壇と一緒にサンタクロース、別になんてことない。

時代とともに宗教の形は変わるのだろうけれど、アフリカから来た宗教がカトリックとの融合している点などキューバは宗教までもキューバらしくInventoインベント(発明/でっち上げ)してしまうのが面白い。そしてキューバ人のゆるーい宗教観、ちょっと日本人と似ている?!

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