キューバ国旗

先日、マタンサス州のあるビルに巨大なキューバ国旗をデザインしたモニュメントができた、という記事を見た。写真を見ると10階建てほどのビルの側面全体を使ってキューバ国旗が描かれている。別の建物の側面には、キューバ革命の発端となった26 de julio(7月26日運動)の旗が同じように建物の壁いっぱいにデザインされ、二つが対になってひとつの作品となっているそうだ。作者は造形作家のJesús Alberto Mederosヘスス・アルベルト・メデロス氏で、長年の構想を実現したとのこと。それぞれの旗の下に描かれている風景は、独立戦争で国家の英雄ホセ・マルティが倒れたドス・リオスと革命戦争の舞台となったシエラマエストラ山脈で、フィデルと愛すべき全ての人たちに捧げる愛と歴史を表現しているそう。バラデロへ行く途中にあるマタンサス市の結構目立つ場所にあるらしいので、いつか近くで見る機会があるかも。

マタンサス市、Jesús Alberto Mederosの作品。Photo by Granma

で、いつも気になっていることなのだけど、キューバの国旗は「縦」使いをすることが多い。学校などの公の場所では国旗掲揚用のポールがちゃんとあって横になびいているのだけど、街でよく見かけるキューバ国旗はベランダや建物の壁に、あるいは道の両側から紐でくくって縦方向で吊るされている。日の丸を縦に掲げることはあまり見ないし、他の国の国旗も横仕様でデザインされているものがほとんどのように思うので、最初は馬鹿でかいキューバ国旗が、縦にベローンと揺れているのにちょっと違和感があった。誰もその理由を説明してくれないので、単に掲揚する竿がないから吊るしとこ、っていうだけかもしれないけれど。

革命広場、有名なチェ・ゲバラ肖像のある内務省の建物に掲げられたキューバ国旗
国会時に掲げられる国旗も縦位置。もう一つの旗はキューバ独立を導いた祖国の父と呼ばれるカルロス・マヌエル・デ・セスペデスが作った国旗、現在は国会の旗としてともに掲げられる

ところで、旗の意味や由来についてはたまに聞かれるので答えられるようにしている。

キューバ国旗はLa Bandera de la Estrella Solitaria(ひとつ星の旗)の名で知られ、第一次キューバ独立戦争の始まった翌年1869年に憲法で国旗として定められた。デザインしたのは、独立戦争以前にキューバをスペインから独立させてアメリカに併合しようと試みたNarciso López(ナルシソ・ロペス)で、実はベネスエラ人。3本の青いラインは当時の東部、中部、西部3つの州、2本の白いラインは独立思想の強固さを象徴する。二等辺三角形は人々の平等、赤い色は自由を欲してみなぎる血、白い星は絶対的な自由と独立を示す。

デザインもさることながら青、赤、白のトリコロールはザ・キューバカラーだ。キューバ代表のスポーツ選手のユニフォームは間違いなくこの色。

ちなみにキューバの国鳥トコロロはこの3色の羽を持つカラフルな鳥

真っ青な空になびくキューバの国旗はすごく絵になっていい。コロニアルな古い建物の壁に吊るされたキューバントリコロールも、思わず写真に納めたくなる。

ビニャーレスで

そういえば我が家にちゃんとしてキューバ国旗がない。子供の手書きの絵じゃなくて、ちゃんとしたのをひとつ(1枚?)手に入れてみようか・・・

最近のキューバ、タバコ事情

キューバの葉巻は世界的に有名だ。良い葉巻が作られるのは、良質のタバコの葉が栽培されるからである。葉巻工場へ行くと説明があるが、一般的な紙巻きタバコは葉巻を作った際に出る切り屑や、葉巻では削除される葉脈の部分などを使って作られる。葉巻工場とは別にタバコ工場があって、タバコも多く生産している。

オルギンにあるタバコ工場の様子  photo by Radio Anglo, Cubadebate

世界中、禁煙傾向にあって愛煙家には辛い世の中、タバコの生産量や商品の出荷量は減っているが、葉巻は贅沢な嗜好品として世の風潮に関わらず一定数の愛用者を保っているらしく、近年でも売上的にほとんど変動がないそうだ。キューバの葉巻も重要な輸出品として、コロナ禍にあっても工場は通常稼働して世界へキューバ産葉巻が供給され続けている。

ところでキューバ国内での消費は、葉巻よりもやはり紙巻きタバコが主流だ。そのキューバのタバコはキツい。日本のような軽いタイプは存在せず、多くの人はフィルターのない両切りのタバコを好む。料金も他国に比べると格段に安く、配給所でも売られている国民の誰もが楽しめる嗜好品のひとつということもあって、男女関わらず喫煙率は高い。若年者の喫煙も目立つ。高校生たちは制服のまま隠れることもなく、学校の横を歩きながらタバコを吸う。もちろんキューバでも未成年者の喫煙は禁止されているのだが・・・

女性革命家セリア・サンチェスもヘビースモーカーだった。肺ガンで亡くなっている photo by Cubadebate

それがここにきて、禁煙せざるを得ないような状況になっている。

ひとつには2021年1月1日以降の経済改革で国産タバコの料金も上がったから。配給所の最低品質タバコCriollosやPopularが1箱7CUP(約35円)から10CUP(約50円)、それよりちょっと質の良い国産タバコH.Upmannは0.7〜0.8CUC(約90〜105円)から24.5ペソ(約120円)といった具合だが、まだまだ世界的に見れば随分安い。

加えてコロナ禍で輸入タバコがほとんどなくなり、国産タバコの生産量も落ちたのか市場に出回る量がぐんと減って、タバコ自体を手に入れることが難しくなってしまった。店で販売されるときにはいつもの大行列に加え、なぜか喧嘩沙汰の大騒ぎ。喫煙者の柄が悪いというわけではなく、吸う人にとっては何としてもゲットしたいという必死さがそうさせるのだろうとかつての喫煙者として寛容に理解している。

当然、店で買えないのなら、行列するのが嫌なら、闇で買う。ただいま闇での料金銘柄問わず、100〜150ペソ(約400〜600円)!!かつて禁煙を決心した20年ほど前の日本の料金をとっくに超えて、現在の日本の料金と変わらなくなってしまった・・・

となると、やはり禁煙。

Criollosのパッケージにある保健省によるメッセージが強烈。「あなたの年(=命)を吸うな、健康に気を付けて」「今日始めよ。火を付けるな、悪習を消せ」「タバコ1本につき1日が失われる」「タバコはあなたを身体の中から燃やす。消しなさい!」(左上から時計回りに)

となってほしいところだけど、辞められないものは仕方ない。友人も「コロナとこの物不足でこんなに我慢してるのに、タバコまで辞めなきゃならないなんてあり得ない!」と意地でも吸い続ける決意だ。値上げによって若年者の喫煙はなくなりそうで何よりだけど、年季の入った愛煙家には、いかにやりくりしてタバコを手に入れるかが目下、食糧調達以上に悩ましいに違いない。

キューバ、のりものいろいろ

のりものが好きだ。

自転車、自動車、列車、飛行機、船、一般的な移動の手段であるものならなんでも、そして遊園地のアトラクションも観光地のロープウェイも。旅先でも移動の際にはできるだけ色々な移動手段を使うように日程を組んで、街中で面白い乗り物に遭遇したら試してみる。

のりものは楽しい。

キューバでそんなのりものフェチの欲求を満たしてくれるのは、古い年季の入ったのりもの達。まずはなんてたって名物のクラシックカー。観光客を乗せて走るオープンカータイプのアメ車タクシーは、キューバへ来たからにはとりあえず試してもらいたい。なんだかんだ言ってテンション上がること間違いなし!

カラフルな車が並ぶ革命広場の駐車場

その他にもキューバを走る車は、好きな人にはたまらない旧車ばかり。大きくていかにも燃費の悪そうな現地でAlmendrón(アルメンドロン=大きなアーモンド)と呼ばれるアメ車の多くは、Máquina(マキナ)という個人経営の乗合タクシーとして利用されている。大まかなルートが決まっているが、好きなところで乗り降りすることができ1区間15ペソ(約60円)から。

旧車ではないけれど、観光客にも人気なのがココタクシー。ココナツのような丸い形の車体が特徴の原付の後ろに客席をつけたもので、走る姿もかわいらしい。乗り心地はともかく風を切って走るのはオープンカーと同じ、マレコンあたりをビューンとゆくのがオススメ。

マレコンをゆくココタクシー

一般市民の足となる公共交通は、ハバナの場合バスやRutero(ルテロ)と呼ばれる乗合タクシー。ある程度路線を知っていて行き先の場所がわからないと利用がちょっと難しい。バスは1回2ペソ(約8円)、Rutero は1区間5ペソ(約20円)で最大3区間で15ペソ(約60円)。

そして1年ほど前にハバナ旧市街とセントロハバナの狭い地域限定で、原付の後ろに6人乗れる台車を引っ付けたのりものが登場した。こちらもルートが決まっていて、1回4ペソ(約16円)道の狭い旧市街の中もいくつかの路線が通っている。電気バイクを使ったエコカーで、ドライバーは全て女性というのが特徴。こちら未経験なので一度乗ってみたいのだけど、そういえばなんて呼ばれているのかも知らない・・・

新登場のエコタクシー

それからハバナでは特に旧市街とセントロハバナに多く身近な足となっているのが、ビシタクシーという自転車タクシー。自転車を改造して後部に二人乗りの座席をつけたものだけど、それぞれ細かい仕様はアレンジ無限、あり合わせの部品の組み合わせや持ち主の個性が出ていて面白い。一生懸命こいでくれるドライバーの背中を見てると思わず「頑張れー!」と声を掛けたくなる。歩くのとはちょっと違った視線で街が見えるので、観光中に一度乗ってみるのもいい。

ビシタクシー、どこでも気軽に止めて乗ることができる。行く先を決めて料金は事前に交渉

馬車が活躍しているところもまだまだ多い。そういえばコロナで見かけなくなったのですっかり忘れていたけれど、旧市街には観光客を乗せて走る馬車があったっけ。そしてハバナの郊外、と言っても旧市街から車で10分の我が家の近所でも、馬車に乗ってゆく人を見かける。またオリエンテ(東部)のバヤモは街中に馬車が多いことから「馬車のまち」と呼ばれているし、他の街でも馬車が立派な交通手段のところはたくさんある。

バラコアの街をゆく馬車

キューバの鉄道もとんでもなくレトロだ。キューバは世界的にも早い時期に鉄道が敷設されたことで知られ全国に路線はあるけれど、まともに機能していないところも多く主要な移動手段とはなっていない。ハバナ近郊で乗れる列車トリニダの郊外で乗れる観光列車については以前このブログでも書いた。そんな鉄道だが数年前から、外国の援助で一新させようという話が出ては消えている。もしくは計画は継続しているのかもしれないけれど、一向に進んだ話は聞かない。車両だけは中国から新しいものが一昨年導入されて、なかなか快適そうな映像をニュースで見たけれどすぐにコロナになってしまって、現在運休中・・・コロナ明けにはこれも試さないと!

あとは船。キューバ人、実は船に乗るのが大変。島国キューバ、飛行機でなければ船で「島の外」へ行くしかないのだが、船をハイジャックして亡命する恐れがあるからとかで限られた公共路線しか存在しないし、これに乗るのもなかなか厳しい。ちなみに観光客を楽しませてくれるビーチリゾートのカタマラン船クルーズなどのほとんどが、キューバ人は利用できない。で、ハバナで船といえば旧市街から対岸のカサブランカ地区を結ぶLanchita(ランチータ=小さな船)がある。カサブランカ地区にはカバーニャ要塞、チェ・ゲバラ邸、モロ要塞と見所も多いので、往復どちらかをこの小舟を使って行ってみるのも面白い。

旧市街からカサブランカ地区へ向かうLanchita、自転車もOK座席はなくたって乗船

他にもバス以外の長距離移動に使われるCamion(カミオン=トラック改造して荷台に椅子をつけたもの)、地方のカーニバルで乗った二人乗り自転車やハバナの植物園のトラクター改造した園内見学の車とか・・・キューバ人のお得意Invento(インベント=でっち上げ?!)がのりものにも存分に活かされているのが楽しい。

キューバののりもの、まだまだ乗り足りない!

Palacio del Segundo Cabo パラシオ・デル・セグンド・カボ博物館

ハバナ旧市街、アルマス広場で一際目を引く建物は、Palacio de los Capitanes Generalesスペイン総督官邸(現ハバナ市歴史博物館)だが、そのすぐ横にある立派なコロニアル建築も見逃せない。

Palacio del Segundo Caboパラシオ・デル・セグンド・カボ

副総督や伍長の住まいとして使われていたもので、スペイン総督官邸と同じ頃1772年に建設が開始された約250年の歴史をもつ建物。1900年代カピトリオの建築前には国会会議場として使われたり、その後はキューバ図書協会が置かれたりしたが、近年になってEUやユネスコの協力で内部を博物館としてリニューアルされ、2017年5月に開館した。

建物前に掲げられたパネル、ハバナの文化遺産救済活動の一環として修復されたことを記す

キューバの博物館は施設自体が古いこともあるが、展示替えもほとんどせず、展示方法も古典的で正直あまり面白くないところが多い。そんな中、このパラシオ・デル・セグンド・カボ博物館は最新テクノロジーを駆使したモダンで視覚に訴える「見せる展示」が充実していて、今どきの博物館施設に多い「体験型展示」も導入されているキューバでは数少ない「おもしろ博物館」だ。

展示内容はキューバの歴史、文学、芸術と多岐に渡るが、全体的にヨーロッパとの比較や関連を重視した視点となっているような気がする。この観点からして展示の目玉はトンネル状のパネルの左右にキューバ史とヨーロッパ史を並列しているもので、ここを潜り左右を見ながら行くと両者を年代的に比較しながら15世紀から1960年代まで到達する。記述はスペイン語のみだけれど、写真も多く使われているので多少のキューバ史の知識があれば理解できることも多いだろう。

歴史トンネルをくぐってキューバ史を学ぼう

このほか主にヨーロッパの装飾史がざっくりわかるようなパネルや映像の展示室や、世界の地図の歴史が実物レプリカを実際に手にしながら学べる部屋、古代の書物の展示、音楽やダンスの部屋ではイヤホンで音を聞いたり、楽器に触れたりと体験型の展示が楽しい。全体のコンセプトがイマイチ掴みにくいけれど、展示を楽しむという点ではよくできた博物館だなあ、と思う。

日本の意匠に関する展示もあり

コロニアルの建物を活かしているのも素敵で、正面の回廊、重厚な石柱、入り口奥の中庭の雰囲と前面総督邸のそれより規模は小さいけれども見応えがある。

通常の旧市街観光では、建物の存在すらスルーされてしまうかも知れないパラシオ・デル・セグンド・カボだけど、時間が許す方は是非見学を。

ハバナクラブ ラム酒博物館リニューアルオープン

年末から年始にかけて、コロナの影響で閉まっていた博物館等が少しずつ再開し始めた。

ハバナクラブラム酒博物館も昨年3月に閉館してから約9ヶ月ぶりに今週リニューアルして再開すると知り、早速見学に行ってきた。

感染予防対策として見学者はマスクを着用し、入館前に手の消毒をして額にピッと検温を行う。スタッフたちももちろんマスク、ガイドの説明を聞きながらの館内ツアー方式で見学するのだけれど、ガイドに至ってはマスクとフェイスシェードをダブル使用、1グループは最大15名までで混雑を避けるために10分以上間隔を開けて各グループをスタートさせる、という策を取るそう。ただ今回参加したのは再オープン後2巡目、スペイン人観光客と彼のガイドと私の3名だけだった。

ハバナクラブラム酒博物館外観

ハバナクラブラム酒博物館は、ハバナ旧市街ビエハ広場やサン・フランシスコ広場の近くにあるコロニアルな建物を改装したこじんまりした博物館だ。その名の通りキューバを代表するラム酒ブランドであるハバナクラブ(国営企業)が経営し、ラム酒の原料であるサトウキビ栽培の歴史からラム酒の作り方まで実物資料や精巧な模型を見ながら学ぶことができる。展示物は少ないものの視覚に訴える資料が多いので、短い時間でラム酒について知るにはよくできているなあ、といつも思う。

まずはキューバで栽培されるサトウキビについて。サトウキビはどこからからキューバへ来た?

ラム酒の原料は砂糖生成過程でできる糖蜜、ラム酒を知るには砂糖についても知らねばならない。同時にキューバの砂糖生産の歴史についても説明。
博物館の目玉はこの模型。20世紀初頭近代の砂糖工場とその周辺にできた街の様子を見事に再現している。列車も走る精巧にできた模型をご覧あれ!
ここからはいよいよラム酒製造過程の説明、まず大きな樽で発酵作業。
ラムは蒸留酒、大きなシリンダー状の蒸留器が並ぶ。
できたお酒を寝かせなければラム酒にはならない。樽職人の作ったオーク材の樽で寝かせてじっくり熟成。
ハバナクラブには8人のラム酒調合のマエストロ=名人がいて、彼らがラムの出来栄えの鍵を握る。
ハバナクラブの商品紹介もしっかり。お値段的にちょっと手の届かないものもありますが・・・
最後は雰囲気のあるバーで、ハバナクラブ7年ものを試飲。そしてラム酒の虜に・・・

約30分のガイドツアー、毎回ガイドによって少しずつ違った説明で新たに学ぶことがあるのが嬉しい。リニューアルして展示内容の一部が変わっていたものの、大きな流れはほぼ以前と同じだった。ただ壁に書かれた説明文とイラストが綺麗にペイントしなおされていたのだが、これがなぜか英語解説のみ。主に観光客相手とは言えキューバ人も来館する公共施設、「なぜ?」とガイドに聞いたら「それ、言われるんだよねー、そのうちスペイン語も追加するよ。」と回答。

それから1月1日からの通貨統一でCUP(キューバペソ)での新しい入場料が気になっていたのだけれど、まだ料金検討中かつ目下プレオープン中ということで、今回何と無料!しかもオープン記念でお土産までもらってしまった。

お土産にはダイキリレシピブック、ピンバッチ、そしてコーヒー風味のエッセンスリキュール。ハバナクラブ7年に数滴垂らして飲むものらしい。キューバでは販売されていないらしくラッキー!!

今年もキューバで年越し、ゆく年2020

世界中がコロナに翻弄された、あまりに特別な1年が終わろうとしている。

キューバにとっても、コロナの影響で厳しい年だったことは間違いない。アメリカ合衆国の経済封鎖に加えて、物流の制限による輸入品量の減少、国の重要な経済基盤となっている観光業の滞り、そしてもちろん国内でのコロナ感染。世界的にも特殊な医療体制を持つキューバのコロナ対策は、それほど注目されなかったかもしれないけれどその独自の方法で当初の封じこみに成功していたように思う。8月、11月以降と感染再拡大はあったものの他国と比較すると人口比あたりの感染率、死亡率は低く抑えられている。4月以降最初に感染爆発があったイタリア始め、カリブ海諸国、中南米諸国など各国への医師団派遣は今も継続、ワクチン開発も順調に進んでいて、コロナがあった故にキューバの医療が改めて注目された年でもあった。

Henry Reeveヘンリーレベ医師派遣団の出発式の様子 photo: MINSAP保健省、Granma新聞

現状は11月15日にハバナ国際空港が再開して国際線発着便が増加してから新規コロナ感染者数が急増し、12月の月間累計は3月にコロナの国内感染が始まって以降最多となってしまった。世界的にも再度感染が拡大傾向にあることも考慮して、政府は2021年1月1日から、2021年1月1日よりアメリカ合衆国、メキシコ、パナマ、バハマ、ハイチ、ドミニカ共和国からのフライトの減便を発表した。また1月10日より、全ての入国者は出発国において認められている医療機関でキューバ到着前72時間以内に実施されたPCR検査の陰性証明書を入国時に提出しなければならないことになった。これらは11月15日の空港再開時より実施されているその他の各種措置に追加して実施されるため、キューバ入国時にもPCR検査を実施し、検査結果が出るまで(48時間以内)は外出を控える等の感染予防対策に従う必要がある。

空港再閉鎖は今のところないようだけれど、コロナ収束へ向けて前進どころか後退・・・

加えてキューバでは2021年1月1日から、通貨統一とそのほか関連する経済政策の実施という近年にない大きな「改革」の年となる。各方面、各事項について詳細が順次発表されているけれど、やってみないとどうなるかわからない、というのが正直なところなんだろう。国の政策がこんなんでいいのかと思うけれど、議論して決定して告知してやってみてダメならすぐに補正可能なのも一党制社会主義のいいところ?!先日発表された新電気代金が高すぎると国民の不満の声が上がったのを受けて、すぐに修正された料金表が発表された。やってみる前からこの調子なので、1月1日以降に混乱しないわけがない。

そんな中でも、キューバ人たちの目下の関心は目の前に迫った年越しのご馳走だ。

年末だけでなくいつも食べてる定番メニューではありますが・・・

ここ数ヶ月めっきり市場で見なくなったキューバ人の好物豚肉、年末のメインは何がなんでも豚の塊なので果てどうするのだろう、と思っていたのだけれど先週あたりから配給所で特別に豚を売り始めた。配給所で、というのがミソなのだけれど国が国民のために平等に各家庭に届くようにと、配給手帳と身分証明書提示で1回のみ豚肉購入可能というシステム採用。我が家も豚肩ロースとバラ肉をドーンと塊で50USD分ほど購入、配給扱いとはいえ決してお安くはないのだけれど、それでも皆なんとか豚肉をゲットしているに違いない。

そして31日の晩はキューバの9割以上の家庭で、豚肉料理+コングリ(黒豆の炊き込みご飯)+ユカ芋という超定番メニューを食べ、ラム酒を飲み、大音響で音楽を鳴らし、おしゃべりに興じながら新年を迎える。

コロナもなんのその、譲れないキューバ人的年越し、2020年も暮れていく。

キューバで一番盛り上がる、Remediosレメディオスのクリスマス

キューバのクリスマスは、いまいち盛り上がらない。今年はコロナの影響もあって、いつも以上に静かで寂しいクリスマスだった。

だがそんなキューバにもクリスマスに盛り上がる街がある。中部ビジャクララ州北部にあるSan Juan de Los Remediosサン・フアン・デ・ロス・レメディオスだ。レメディオスは1515年創立の歴史ある都市、コロニアルな街並みが残る穏やかで美しい街。ここで12月24日の聖夜の晩に行われるのがParranda de Remediosパランダ・デ・レメディオス、レメディオ祭。2018年にはユネスコ無形文化遺産に指定され、今年で200年を迎えた伝統的なこのお祭りを目的に、クリスマスには世界中から観光客が集まって近郊も含めて宿は満室となり大変な賑わいを見せる。

祭の起源は1820年、街の教区長が12月24日寒い夜に行われるミサへ、宗教に興味を持たずに街をぶらつく若者たちを鳴らし物の楽器などを使って教会に呼び寄せたことに始まるという。時代とともにSan Salvadorサン・サルバドールとEl Carmenエル・カルメンの2地区に分けて、音楽、ダンス、山車、広場の飾り付けなどどちらがより賑やかに聖夜の夜を盛り上げるかを競う祭りとなり、今に伝わる。

広場には両地区渾身の作、夜にはイルミネーションで光り輝く

キューバには各地に夏のカーニバルが行われるが、ハバナのそれなんかとは比べると、山車の飾りや踊り子の衣装は格段に手が込んでいて美しいのに驚く。

衣装が素晴らしい!Photo: Irene Pérez/Cubadebate

これらに加えてレメディオス祭りの名物は、当日打ち上げられる花火だ。夕方の開始時、夜が更けてから、深夜のミサが終わってからと何度か花火タイムがあって両地区が競うように花火を上げまくる。日本の花火のように洗練された美しさはないにしろ、とにかく音と打ち上げる数がすごいらしく映像を見ると空が煌々と明るくなってむせるほどに煙がモクモクと上がるほどだ。

Photo: Ismael Francisco/Cubadebate

12月24日から25日の明け方まで一晩中、眠ることなく続くレメディオのパランダ。この日のために街の人々は1年間かけて準備し、全ての成果を一晩にかけるという。

実は2年前、祭り当日ではなくて前日23日にレメディオスに滞在する機会があった。広場には両地区の最大の作品である大きな飾り付けがほぼ組み上がっていて、夜になると広場近くのメインストリートには夜店が並び、既に祭り気分が高まる中で街歩きを楽しんだ。広場近くには祭り博物館があるのだけれど、これが写真やこれまでに使用された衣装の展示など非常に良くできているので、祭の時期にレメディオスにいけない人はこちらを見学したらいい。館内ガイドのおばちゃんがものすごい熱のこもった解説をしてくれたのがとても印象に残っている。

前夜祭12月23日もそこそこに盛り上がっていた

そんなレメディオスの人が情熱をかけるレメディオのパランダも、今年はコロナの影響で残念ながら中止。ただ200年目の記念の年だったこともあり、写真集が出版され広場では小規模の式典を開催したそうだ。

今年の12月24日の様子。Photo: Irene Pérez/Cubadebate

来年は夜空をたくさんの花火が彩るレメディオスの祭りが開催されて、キューバで一番盛り上がるクリスマスが見られますように!

キューバで葉巻体験

キューバの葉巻は世界的に有名だ。世界の葉巻三大産地は、同じカリブの国でお隣の島にあるドミニカ共和国、ハイチ、そしてキューバと言われる。

でも日本人にとって葉巻はあまり馴染みがない。おそらく映画などのイメージで、マフィアなんかの厳つい男性が吸うものという印象があって、ちょっと取っつきにくいと思っている人も多いに違いない。加えてタバコ=喫煙を嫌う傾向は年々高まっているので、葉巻について語られても顔をしかめられてしまうかも。

それでもキューバを訪れたら、何だかの形で葉巻体験をしてもらいたい。きっと葉巻のイメージが変わるはず。

チェ・ゲバラも葉巻を愛好していたことで知られる。

葉巻工場見学:ハバナでは一般に公開していて観光客も見学できる葉巻工場がいくつかある。工場といってもそれぞれの規模はそれほど大きくなく、街中にあるものがほとんどで中の様子はさながら昭和の町工場。葉の選別と仕分け、葉脈とり、巻き作業、品質検査、ラベル付け、色分け、箱詰と工程ごとに違う部屋、作業スペースで作業をしている様子をガイドの案内で見学する。誰もが手を休めることなく黙々と・・・というわけではなくここはラテンな工員たち、作業しながらも冗談を言い合ったり、鼻歌歌ったり、見学者に話しかけたり、はたまた葉巻作りながら葉巻吸ったり!?実は彼らは1日数本の葉巻を「支給」されていて、作業中に吸うのも可。そんな彼らは全員、特別な訓練を受けて葉巻職人となったプロ。手元を見るとその見事なテクニックに驚く。こうやって1本1本が最初から最後まで手作業で作られていることを知れば、葉巻がただの嗜好品ではなく芸術品と言っていい価値あるもので、高価であることにも納得するだろう。
*日曜日ほか夏休暇など工場がストップするときには見学できないので注意。事前に申し込みが必要。見学料金は要問い合わせ。工場内への手荷物の持ち込み禁止、撮影禁止。

ビニャーレスでタバコ農家を訪問:ハバナから日帰りで訪れることのできるビニャーレス。ビニャーレスのあるピニャーレス・リオ州はキューバで栽培されるタバコの葉の7割ほどを栽培し、ここで収穫された良質の葉が世界最高級と言われるキューバ産葉巻の材料となる。ビニャーレス観光で必ず訪問するのが、タバコ農家。多くの農家さんが自宅を公開し農場見学を受け入れている。中には広大な敷地内でピクニックビッフェの食事を提供しているところも。ここでは葉巻の原料であるタバコ栽培の様子や自家製葉巻の巻き方を見学することができる。タバコ以外の作物や家畜、養蜂など各農家さんが手掛けるものについても一緒に説明してくれて、充実した社会見学を楽しむことができる。

葉巻の似合うしぶ〜い農家の男性が案内してくれる

シガーバー体験:日本で日常的に葉巻を吸う人は、それほど多くはいないと思う。シガーバーのような特別な空間でお酒と一緒に楽しむもので、それもごく一部の愛好家が嗜むものだろう。キューバでも普通の紙巻タバコの方が一般的で喫煙率も高いのだけれど、葉巻を好んで吸う人たちも普通にいる。というのも、キューバ人用の安い葉巻もちゃんと売られているからで、タバコも葉巻もキューバ人用のものは驚くほど安い。路上でその辺のおっちゃん達と一服交えるのもいいけれど、せっかくならシガーバーなるところへ行ってみるのもいいかもしれない。ホテルに併設していることもあるし、旧市街にも何軒かあるので観光の途中にお土産を買いがてらのぞいて一服どうぞ。イメージ通りの薄暗〜いバーに白い煙と葉巻の匂いがなびく雰囲気で、贅沢な時間を過ごせる。

カウンターに座ってバーテンダーに火をつけてもらう

マリダッヘ:葉巻は吸い方には実は作法がある。もちろん気軽に好きなように吸ったらいいのだけれど、美味しく味わうためにはそれを知っていた方がいい。葉巻のお供に適しているのは、ラム酒とコーヒー。そうキューバの三代名産品が揃えば、この上ない至福の時間を楽しみことができる。スペイン語でMaridajeマリダッへ=マリアージュという言葉を聞いたことがあるかもしれない。「組み合わせ」という意味のフランス語だそうだが、葉巻にもこの組み合わせの妙が大事。これを体験しながら葉巻の作法を学ぶことができるアクティビティもありこれがなかなか面白い。葉巻とラム酒とコーヒーと一度に試飲できてお得感があるマリダッへ、おすすめ。

葉巻、ラム酒、コーヒー。キューバ産最強トリオ!

お好みの葉巻体験をして、想い出を自宅に持ち帰りたくなったらお土産を買うのも忘れずに。ただし、決して路上で声をかけてくる売人から買わないように。ブランド物と称して不良品や偽物を売りつけてくる輩がいるので、葉巻は必ず専門店やホテルの売店など信頼できるショップで買うこと!

1本1本各ブランドのシガーケースに入った葉巻はお土産に

12月、キューバの師走

12月になってしまった。

世界中がコロナであまりに多くのことが変わってしまい、受け入れざるを得ない変化を否応無く受け入れて、慣れるも慣れないもなくここまで一気に来てしまった感じがする。1年を振り返るのはもう少し先にして、12月のキューバの様子。

1日、月が変わるのを知っているかのように天気が「冬」になった。1ヶ月ほど前から朝晩の気温が下がって(といっても最高気温が30度を切り最低気温が22〜23度)、随分過ごしやすくなっていたが、30日の夕方から風向きが急に変わって夜には強い風が吹き始めた。そして翌朝はどんより曇った空に冷たい風が吹き荒れている。

これがキューバの冬。

Frente fríoいわゆる寒冷前線が接近して気温がぐっと下がることがこれからの季節、月に何度かある。今回はまだ12月の初めということでそれほど気温は下がっていないけれど、風もあってより「涼しく」感じる。だが決して「寒く」はない。でも亜熱帯の気候に慣れているキューバ人にとってはもう冬の到来、早速久しぶりの長袖と長ズボンを出してきてしっかり防寒して外出している。普段はしない重ね着をして数少ない冬服を無理やり合わせているのがチグハグだったり、妙に大袈裟だったりするので、キューバ人の冬コーデにはクスッとしてしまう。

気温が下がったこの日、長袖を着た人が目立つ

この時期になると、多くの国や地域でクリスマスのデコレーションが街を賑やかにしているはずだけれど、コロナ禍で今年はどんな感じなんだろう。キューバはかつてスペイン植民地だったこともありカトリック教徒が多いとされるが、他の中南米諸国と比較すると宗教色は薄くてカトリックの習慣が生活の中に浸透しているのを実感することがほとんどない。

その証拠にクリスマスが盛り上がらない・・・

最近は観光客向けにホテルやレストランの飾り付けも派手になってはきたけれど、ウキウキワクワク、クリスマス気分が高まるほどではない。ましてやコロナの影響で観光客がまだほとんどいない今年は、より寂しいものになりそうだ。

我が家の近所の売店、クリスマス&年末向けのペイントに。62の数字は革命勝利から62年を示す。キューバでは1月1日は革命勝利の日でもある

普段からイマイチのクリスマスだけれど、クリスマスの後にやってくる大晦日から新年を迎える時は大いに盛り上がる。家族や友人たちで集まり遅い夕食をとって、年が替わる瞬間を皆で一緒に迎えるのだ。もちろんこの日はご馳走で、キューバ人が大好きな豚の大きな塊肉をガッツリ食べて、ビールやラム酒を飲んでFiestaフィエスタ=パーティー!

でも今年はコロナの影響もあって「密」になる集まりは控えなきゃならないし、何よりも市場に豚肉がない。キューバ人のお腹を満たすだけの豚がどう見ても足りない。ビールも長いこと店で売っているのを見たことがない。

今年は犠牲になる豚も少ない?!

でもきっとどんな逆境にも打ち勝つ強さとユーモアを持ったキューバ人。得意のinventoインベント=発明・でっち上げをして、このあまりに特殊で異常な1年の締めくくりをしてくれるんじゃないか、と楽しみにしている。

Habana 501 Aniversario: ハバナ創立501年

11月16日はハバナの創立記念日だった。ハバナの街が創られたのは1519年、去年がちょうど500年の記念の年だったので、何かにつけて500年を冠にしてお祝いしたり記念事業が行われたりして、街中に500の数字が目立った。今でもまだあちこちにその500が残っていたりする。

今年もハバナの誕生日11月16日が近づいて、ハバナ旧市街を歩いていたら500年記念事業で始まったホテルの建築現場や修復中の建物の囲いに付けられた看板が501年バージョンのものに付け替えられているのに気がついた。今年は7月末に偉大なHistoriador de la Habanaハバナ史家であるEusebio Lealエウセビオ・レアル氏が亡くなって、彼の功績へ敬意を表してということだろう、写真と市民の思いを伝えるような言葉が添えられていた

旧市街、ハバナ501年アニバーサリーの看板

このエウセビオ・レアル氏、ハバナ旧市街出身で若くして政府公認の歴史家とでも言ったらいいのだろうかHistoriador de la Habanaハバナの史家となって、ハバナだけでなくキューバ中の歴史を知り尽くし、歴史だけでなくあらゆることにその豊富な知識で言及できる生き字引といえる方だった。職場も旧市街の中に持ち、建物の修復現場に出向いて指示を出し、旧市街を歩いて市民と親しく語り合う姿もよく見られたといい、その人柄もとても素晴らしかったと察する。その語り口や文章にも彼の性格といかにハバナをキューバを愛しているかが伝わってきて、個人的にすごいファンだった。使われる言葉が簡潔で聞き取りやすい話し方、スペイン語が完璧に分からなくてもテレビなどで話すのを見てもじーっと聞き入ってしまうほど。いつか彼の講義や講演を生で聞きたい、と思っていたのに叶わなかった。残念・・・

Eusebio Lealエウセビオ・レアル氏 photo:Cubadebate, by Néstor Martí
昨年ハバナ創立500年に合わせて完全修復されたカピトリオ、この修復にもEusebio氏は多大な貢献をした。

そのエウセビオ・レアル氏が愛して止まなかったハバナの創立記念日、なんだかんだでここ数年この日は旧市街を訪れている。旧市街で行われるイベントで有名なのはアルマス広場のEl Templete テンプレーテの建物の横にあるセイバの木を回る習慣だ。

実はこのセイバの木が重要な意味をもつ。ハバナがつくられた時、スペインからやってきた征服者達が初めてカトリックのミサを行ったのがこのセイバの木の下だった。当時はまだこの辺りに原住民の人たち(コロンブス上陸後、半世紀ほどで原住民は絶滅)が暮らしていて、その部族の酋長Habaguanexハバグアネクスもこのミサに参加した。そしてHabanaハバナの名は、その酋長の名前からが付けられた・・・だからこの場所がハバナ創立と深く関わっているというわけだ。なお、テンプレーテの建物は1828年に建てられたもので、この中には先のセイバの木の下で行われたミサの様子が描かれた絵画(フランス人画家Jean Baptiste Vermay作)が奉納されており、開館時には中に入ってこの絵を見ることができる。

エウセビオ・レアル氏によると17世紀ごろから、ハバナの創立記念日にこのセイバの木を回る習慣が始まり現在まで残っているとのこと。毎年市民は11月16日にセイバの木に触れながら、3回周ってお願い事をして左肩越しに小銭を木に向かって投げる。当日は夜中の0時から24時間解放されて日中は長い行列ができるというのが毎年恒例だ。

いつもは遠巻きに見ることしかできなかったのが、今年はすぐ近くまで行って、皆が実際にセイバの木に触ってグルグル周っている様子を見ることができた。

だが今年はコロナの影響もあって午前中に行列はほとんどなし、テンプレーテの敷地を囲む柵の前にほんの十数人が並んでいただけだった。オビスポ通りの商店には食料や日用品を求める人が密になって長い行列を作っているというのに、なんだか少し寂しいハバナの501歳誕生日。来年502歳はもっとたくさんの人がこの日を想い出してくれるような世の中になっていますように。