ハリケーンイアン、キューバを襲う

先週、ハリケーンイアンがキューバを襲った。

キューバで起こりうる自然災害で、最も警戒されているのがハリケーンだ。過去数年に一度、もしくは年に複数回、ハリケーンが大きな被害をもたらしているが、そうした経験を生かして、キューバでは独特の防災システムを取り入れている。社会主義という特性を生かして、上層部から各組織への情報伝達や指示系統はシステマチックに徹底されていて、国民一人一人がその中に取り込まれ「命を守る」防災体制がとられているのだ。
ハリケーンの季節:キューバの防災

実際にキューバで生活するようになって、この防災システムがいったいどういったものかを実感することがこれまでにも何度かあった。2017年9月にキューバを襲ったイルマ。この時はキューバ東端から北岸を西へ向かってハバナも直撃、通過後何週間も日常生活に支障があるような大きな被害をもたらしたことは、未だ記憶に新しい。この時をはじめたとえそれがハリケーン級の嵐ではなくても、数日前から警戒体制が強められテレビなどでは気象関連の情報に多くの時間を割き、まだ何の天候の変化もない数日前から公共交通が運休されたり、学校が休校になったりするということがあった。とにかく「そこまでする?!」とも思える早め早めの避難や準備が徹底されているのには、いつも驚かされる。

さて、今回のイアン。

ハリケーンイアンの通過予報経路、ほぼこの通りの進路をとった。INSMETキューバ気象研究所HPより

ジャマイカ付近からキューバの南沖合を西に向かって接近中には、まだ熱帯低気圧だった。天気予報ではキューバの西端付近で、進路を北に変えPinar del Ríoピナール・デル・リオ州に上陸、通過して北岸に抜けフロリダへ向かう、とのことだった。キューバ西部のハバナを含む各州では9月26日(月)からは学校教育機関の休校や各公共機関が閉鎖となり、同日夜からはハバナでも公共交通機関が止まった。そして、キューバ上陸前にはハリケーンカテゴリー1となり、その後通過中にカテゴリー2、3と発達して、ほぼ予想通りの進路で9月27日(火)未明から同日午前中にかけて、ゆっくりとピナール・デル・リオ州を通り抜けていった。

日本に接近する台風と違って、この付近で発生するハリケーンは上陸しても勢力を弱めるどころか逆に強めて、速度も弱まり時に停滞して、長時間に渡って激しい雨風が続くから厄介だ。今回も明け方には抜けるだろうとの予報だったが、夜が明けてもまだピナール・デル・リオ北部に居続けて、昼前になってやっと去っていった。ピナール・デル・リオに住む人たちにとっては、本当に長く恐ろしい一夜だったことだろう。

ハバナではキューバ通過中よりも抜けてからのほうが、風雨が強まり翌日も1日嵐だった。我が家は築60年以上とはいえ比較的頑丈なコンクリートのアパートであることもあるが、イルマの時に比べて、感じる風雨はそれほどでもなかったように思う。それでも収まった後に外へ出ると、アパートのエントランスにある大きな木がなぎ倒れ、道路には大量の木っ端が散乱していた。ハバナ市内各所でも建物、街路樹等の被害がかなりあったとのことだ。

我が家アパートの前の倒れた大木、翌日には細かく切り分けて処分された

そしてハバナでも通過直後から停電が続いた。9月27日(火)夜には政府が発電所のシステム故障によりキューバ全土が電気のない状態、「発電ゼロ」に一時なったと発表。これにはさすがにゾッとした。それでなくてもここ数ヶ月の発電所の不具合や燃料不足による電力不足は深刻で、日常から計画停電の措置が取られている。それに加えてハリケーン被害による停電、「このまましばらく電気がないのでは・・・」と心配になった。

真っ暗なハバナの街。日系人会会長のFrancisさん撮影

でも、キューバの電電公社UNE(Unión Eléctrica de Cuba)は頑張った。

ハバナでは丸2日近くかかったものの、翌々日から徐々に復旧していった。我が家のあるアパートでも約48時間の停電ののちに電気がともると、「おおーっ!」とそこら中から声があがった。

テレビをつけると、イアンが直撃したピナール・デル・リオ州の惨状を映像で目の当たりにした。想像した以上に酷い。郊外の木造の家の多くは家ごと吹き飛び跡形もない。ピナール・デル・リオといえばキューバの名産品葉巻に使うタバコの葉の生産が有名だが、畑にあるタバコの葉を乾燥させる小屋も木っ端微塵といった状態だ。幸いタバコ栽培は9月下旬から始まったところでまだ種まき前だったり、苗床の状態だったりして大きな被害はなかったが、昨年収穫した葉を乾燥・発酵後に保存したものが浸水して台無しになってしまった農家もあったようだ。

吹っ飛んだタバコ乾燥小屋。Foto: Ronaldo Suárez rivas by Granma
屋根がすっかりなくなってしまった家。Foto: Adolfo Ricardo Fernández Bernal by Rasio Guamá

ピナールデルリオ州の被害状況を伝えるCubadebateの記事

世界遺産でもあり観光地として有名なViñalesビニャーレスも多大な被害を受けた。街のメインストリートには瓦礫や木っ端が散らかり、屋根が飛んでしまった家屋も見られる。訪れた人なら記憶にあるだろう、ビニャーレス渓谷を見渡せる展望台にあるHotel Jasuminホテルハスミンの屋根も見事になくなってしまっていた。せっかく観光客が戻ってきたところで辛すぎる光景だ。

渓谷を見渡せる絶好のポイントにあるホテルハスミンの無残な姿。
Foto: Lázaro Manuel Alonso by Facebook
観光名所インディオの洞窟へ向かう道も冠水した。Foto: Lázaro Manuel Alonso by Facebook

ハリケーン通過後の復旧はキューバの防災システムの一部であり政府や各機関はすばやい対応をとっているが、未だ被害の深刻だったピナールデルリオ州ではほとんど電気も復旧しておらず、Mayabequeマヤベケ州、Isla de la Juventud青年の島も含めて、被害状況もすべては把握できていないようだ。死者も数名でたとのことだが、正式な人数は発表されていない。

どんなに素晴らしい防災対策をとっていても自然の脅威には叶わない、と改めて思わせた今回のハリケーンイアンだったけれども、被害を最小限に止めるよう声を掛け合い情報交換して個人レベルで事前にできることをしたり、災害後に助け合って復旧に努めたりといった、キューバのいいところをチラッと垣間見ることもできた。

これから11月末までまだハリケーンシーズンは続く。「今年はもうどうかこれっきりにして下さい!」と祈らずにはいられない。

ハリケーンの季節:キューバの防災

5月から11月の雨季はキューバのハリケーンシーズンでもある。日本でいうところの台風に相当する発達した熱帯低気圧が、カリブ海・メキシコ湾を含む大西洋北部や北太平洋で発生するとハリケーンと呼ばれる。

スペイン語では、Huracánウラカン。

このウラカンが最も発生しやすくキューバに影響を与えるのが9〜10月と言われている。今年もこれまでにすでにいくつかの熱帯低気圧がカリブ海域で発生したが、ハリケーンクラスまで発達せず、またキューバに接近することもなかった。それが8月の後半になって立て続けに2つ、いずれもハリケーン手前のTormenta Tropical トルメンタ・トロピカル(熱帯暴風雨)がキューバに接近した。Marcoマルコはキューバの南西付近で発生し、西のユカタン半島の間を抜けて北上したので幸いほとんど影響はなく、通過後の24日にはハリケーンとなってアメリカ、ルイジアナ州沖へ向かった。一方Lauraラウラは東隣のハイチとドミニカ共和国で死者が出るほどの被害を出し、そのまま23日から25日夜半にかけて、キューバ東端をかすめて南岸海上を島に沿うようにして北西へ向かった。

左がマルコ、右がラウラ。Photo by NOAA

ラウラは当初の予報で上陸してキューバを横断し勢力を強めながらハリケーンに発達するとのことだったので、数日前から警戒し十分な対策が取られた。ハバナは24日午後から風が強まって雲行きが怪しくなり、海も白波が立って荒れ始めた。我が家は夜7時過ぎには停電(他の多くの地域でも停電したとのこと)、早々に横になって収まるのを待つ・・・窓ガラスがガタガタとして強い風が吹いているのが感じられたが、それほどひどい暴風雨という印象はなかった。夜半過ぎには電気も回復し、25日朝には風はやや強いものの晴れ間も見えるほどで我が家の周辺では大きな被害もなかったことにホッとした。ラウラは結局、夜のうちにキューバの最西の州Pinal del Ríoの一部を2時間ほどかけて縦断し、北の海メキシコ湾へ抜けた。全貌はまだ分からないが、幸い大きな被害は出なかった模様だ。

ところで、キューバではこうした災害への対応でも独特のシステムが取られている。Difensa Civil市民防衛と呼ばれるもので、ハバナにある全国防衛組織本部を中心に想定されるあらゆる災害や非常時に国を守るため全国を網羅する仕組みが存在する。直轄の組織や軍だけでなく学校、病院、店舗、企業など要はありとあらゆる公共組織や企業がこのシステムに組み込まれているので、なんだかの自然災害が発生した場合でも、本部で専門家とともに対策が練られ各指令を関連する組織に発信、すぐに現地で実行、国民が一丸となって国を守る、というわけだ。

市民防衛の日には防災訓練ならぬ、防衛訓練が各地域で行われる。若いおねーちゃんたちも手榴弾投たり、銃を構える。これって本当に役立つ!?

ハリケーンの場合、災害防止対策が徹底しすぎるほどに徹底している。交通機関はそんなに早く止めなくてもいいだろう、というくらい何日も前から完全運休、病院などに避難所を準備して沿岸部など危険地域に暮らす人、高齢者や子供、妊婦など弱者をごそっと避難させ、学校、公共機関や店は有無をいわさず閉鎖。農作物や家畜の被害も最低限に留められるよう国からの指示で対策がとられる。テレビやラジオでは24時間ひたすら情報を流し続けるので、ハリケーンが接近する前にいささか疲れてしまうほど。しかしそのおかげで付近の他国で大惨事となっても、キューバでは人的被害はゼロといった具合で被害を最低限に抑えることができている。

これまでにも何度かキューバでハリケーンを経験したことがあるが、日本の台風と違って接近、上陸してからが長いような気がする。台風の場合は日本に上陸すると勢力が弱まってスピードを上げて北上、というパターンが多いけれど、ここでは陸に近付いて上陸してからもノロノロあるいは一箇所に停滞していつまでも動かない、そしてさらに勢力を増す、なんてこともある。当然の結果、長時間にわたって強い雨風が続くので人々はなかなか身動きが取れず、家屋や農作物などの被害もより大きくなってしまう。

前回ハリケーンがハバナに接近して大きな被害が出たのは2017年のIrmaイルマだったが、この時もキューバの東部北岸からハバナ付近を通って北上するのに1週間近くかかった。通過後もハバナでも停電が続いて不便な日が続き、マレコン添いの建物も大きな被害を受け今でも建物の修復がされず放置されているところもある。農作物は長期にわたって影響があり、壊滅的な被害を受けた東部のカカオは翌々年になってやっと収穫が可能になったくらいで、ハリケーン前のレベルへ回復には程遠い。

ハリケーンイルマの後、小学校の大きな木が根こそぎ倒れた。

今年はコロナの感染による影響がいまだ続く中でのハリケーンシーズン、コロナ感染に加えてハリケーン被害というのは辛い。どうか各地で惨事を引き起こすようなハリケーンが発生しませんように、と祈るばかり。

キューバでスキューバダイビング:おすすめスポット

先日に続きキューバでスキューバ、有名なダイビングスポット紹介。都市・地域としては行ったことがあるけれど潜ったことはないので、是非ダイビングをしに行ってみたい!

キューバでのダイビングのほとんどは船でポイントまで行って潜水するボートダイビングのスタイルで、多くの場合、ダイビング器材レンタル、船、インストラクター込みのパッケージプランに参加することになる。通常インストラクターは多言語対応可能で、少なくともスペイン語・英語を話す。ハバナ近海やビーチリゾートで有名なバラデロでも手軽に楽しんでもらうことができるが、せっかくならば少し足を伸ばして地方沿岸で潜って一緒にほかの街も楽しんでみたいところ。予算と時間に余裕があれば、ダイビング専用のクルーズ船で数日間に渡ってカリブ海を船上で過ごしながら贅沢なダイビング三昧のプランもあり。

注:写真はいずれもキューバで撮影されたものですが、必ずしも各ダイビングスポットに対応するものではありません。

【María la Gorda/マリア・ラ・ゴルダ】ピナール・デル・リオ州
キューバ本島の西の端に位置する、ラテンアメリカのダイバーたちの間では有名なダイビングスポット。ゴツゴツした岩肌の断崖が続く沿岸部に沿うようにして、50のダイビングスポットが点在。水深5mからサンゴ礁が見られ、この海域特有の黒サンゴも生息している。5-6月にはウミガメが産卵のため砂浜を訪れるのを観察でき、8-9月は沿岸部近くまでやってくるクジラを見るこができる。そのほか沈船や海底トンネルのポイントも多数。

マリア・ラ・ゴルダのダイビングセンター前、壁には世界各地のステッカー

【Isla de la Juventud/イスラ・デ・ラ・フベントゥ】イスラ・デ・ラ・フベントゥ特別区
イスラ・デ・ラ・フベントゥは、キューバで2番目に大きな島。この島の南岸部は潮流の影響が少なく穏やかで、透明度も30mを超え様々なレベルのダイバーが楽しめるポイントが50以上ある。40種類ものサンゴが生息するといわれ、そこで見られる魚たちも豊富でバラクーダなど比較的大きな魚やウミガメも見ることができ、水中写真撮影を好むダイバーにも人気。また海底の地形も様々で、各ポイントで必ずなんだかのダイナミックな地形の変化が見られる。

毎年、ダイビング写真コンテストも開催。

【Bahía de Cochinos/バイア・デ・コチーノス】マタンサス州
キューバ革命後間もなく1961年に起きたピッグス湾(=バイア・デ・コチーノス)事件で有名なヒロン湾。湾内の長い海岸線にはPlaya Larga やPlaya Girón といったビーチ、12のダイビングポイントがあり、まさしくカリビアンブルーの美しい海を堪能できる場所でもある。キューバでは珍しく、陸からのエントリーできるポイントもあるので都市から都市への移動中に立ち寄ってシュノーケリングやダイビング体験をする観光客も多い。また、近くにはセノーテ(地底で海を繋がっている円形状の深い池、メキシコユカタン半島のものが有名)もあり、こちらでダイビングも可能。

ヒロン湾は、シュノーケリングも気軽に楽しめるスポット

【Santa Lucia/サンタ・ルシア】カマグエイ州
キューバ北岸、大西洋側で1番のダイビングスポットと言われるサンタ・ルシア。というのも沿岸部には世界でも2番目に長いというサンゴ礁が広がっているためで、ダイバーたちを魅了する35のダイビングポイントがある。8月下旬から11月末までのコンディションの良いときに限り、餌付けされたオオシロザメを間近で見ることがでる。そのほか水深27mの海底に眠るスペイン統治時代の要塞跡、19世紀代の沈船が見られるポイントも有名。

サメも・・・

【Jardines de la Reyna/ハルディン・デ・ラ・レイナ】シエゴ・デ・アビラ州
キューバの南岸中央、大小250の島々の連なりハルディン・デ・ラ・レイナ=女王の庭と名付けたのはキューバを発見したコロンブス。その名にふさわしく海底では色とりどりのサンゴ礁、マングローブ、そこに生息する生物たちといった、幾千年のうちに形成されその姿を変える事なく保護されてきた生態系が目の前に広がる。サメの種類も多く人を怖がらない好奇心旺盛なクロトガリザメがすぐ横を泳いでいる、ということも・・・そしてサメだけでなく、ここでの目玉は体長3m以上にもなるイリエワニと泳ぐこと!ハルディン・デ・ラ・レイナへはダイビング専用のクルーズ船でのみ滞在可能、海上でのんびり海中ではダイナミックなダイブ三昧の贅沢を堪能できる。

ワニも!!

キューバでスキューバダイビング

キューバはカリブ海で一番大きな島で、その海岸線は5,500kmにおよびます。また島の周辺にはCayo(カヨ)と呼ばれる数千もの小さな無人の島々がとりまくようにあり、その沿岸は世界でも有数のサンゴ生息域として知られ、動植物相もとても豊か。トロピカルな気候から海水温は年間を通して25度前後、海流の影響も低く、波も穏やかで透明度は25m以上と抜群、ダイビングにはもってこいの環境です。それにも関わらずダイビングで訪れる人はまだまだ少ない上、政府も周辺海洋域の保護に力を入れているため、類い稀な良い状態でサンゴ礁やその他の自然を見ることができ、その姿は「コロンブスがキューバを発見した時から変わらない」ともいわれるほどです。さらにはカリブ海域の歴史を物語る沈船に遭遇したり、ドロップオフや海底洞窟などのユニークな地形が見られたり、とバラエティーに富んだダイビングを楽しむことができ、経験豊富なダイバーたちも飽きさせません。一方で初心者でも安心してダイビングできるスポットも多く、レベルを問わずに美しいカリブの海を満喫できること間違いなしのまさしくダイビングパラダイスなのです・・・

と、ショップのダイビングツアー案内並みの解説をしながら、キューバの海に潜ったことがない。若かりし頃に当時の仕事の関係でライセンスを取って、日本近海や琵琶湖での調査ダイバー経験はあるのにキラキラの海でファンダイビングもしたことがない。それだってもうかれこれ20年以上前のこと。キューバに暮らして、せっかく目の前に真っ青で美しい海が広がる環境に住んでいるんだから潜ってみよう、と思いつつなかなか重い腰があがらない。他の場所に比べたらダイビング料金は安いし、装備も見たことあるけれど悪くないので安心できそう。といいながら、自分の知識と経験は20年前のものだから我ながら信用できない・・・と、ウダウダ言って5年が過ぎた。

キューバでのダイビングはほとんどがボートから。このダイビングボートには乗ったことあるのだけどね。

現在、コロナの影響で海外からの観光客もおらずダイビングは無理だけれど、我が家の庭、コスタでシュノーケリングはできる。遠出してビーチに行くこともできない今年の夏だが、時間だけはたっぷりあるので、この自宅前リゾートで子供と一緒にこれまでにないほどよく海に入っている。残念なのは子供用のオモチャのマスクとシュノーケルしかなくて、フィンもないので、ほぼ水面から海中を眺めてフワフワすることぐらいしかできない。それでも沖からすぐ近くに、青いのやら黄色いのやらこんなにいろんな種類の魚がいるのか、ともう楽しくて何時間でも見ていたい気分になる。透明度も軽く20mほどあるだろうか、流れもそれほどないので安心して視界のある範囲を散策でき、岩場であるためちょっとした起伏もあって面白い。それに何より久しぶりでも海中での動きは我ながらスムーズで、近年の陸上での動きの鈍さや疲労っぷりを考えたら、水の中の方が断然楽チンなのだ!

我が家の庭、コスタ。しばらくはこの辺りで楽しむしかない。

ダイビングは危険を避けて無理をしなければ、かなり高齢まで楽しめる娯楽でありスポーツでもある。

やっぱり今こそキューバでスキューバだな。

フォトジェニック・キューバ

世界中にフォトジェニックな場所は数あれど、キューバの「素敵な写真が撮れる度」今でいう「インスタ映え」はやっぱり格別だと思う。街並み、自然、人物、どれを撮っても間違いなく絵になる。中でも街並み、フォトジェニック大賞都市部門があったら上位入賞は硬い。

自分自身、最近ではほとんど写真を撮らないし、スマホだけでカメラすら持たなくなってしまったけれど、いろんな人の撮るキューバを見る度にそう思う。そして写真に収めなくても毎日その景色の中にいて、ハバナの街中で面白いカットを楽しみながら散歩するのが何よりも好きだ。もちろん、時にはスマホを出して記録してみるけれど自分の腕では「言葉」を添えないと、何かを伝えることは難しい。

そんなハバナの街で、記念の写真をプロのカメラマンに撮影してもらうフォトセッションに何度か同行したことがある。多くは新婚カップルのウェディングフォト、男性はタキシードだったり少しカジュアルな感じだったりするのだけれど、女性はほとんどがドレスを着て臨むので、撮影しながら街ゆく姿は嫌でも目立つ。慣れないモデル体験と皆の目線とで、最初はぎこちない二人も、プロカメラマンのリードと道ゆくキューバ人達の「¡Felicidades! おめでとう」の声に少しずつ緊張がほぐれて、自然な笑顔が出てくる。どこを切り取ってもバシッとフレームにハマるハバナの街を、モデルになった気分で歩きながらの撮影そのものが素敵な想い出になる。

モヒートで有名なバー、ボデギータ・デル・メディオ前で。

旧市街で会ったバレエ学校の子供達とポーズ。

コロニアルな建物の中へお邪魔して撮影も。

クラシックカーも思いのままに使って。

青い海をバックにビーチを裸足で、手をつないで。

沈みゆく夕日とハバナの街をバックに。

こうやって1日一緒について回って写真に収まる二人の姿を見ていると、もう完全に花嫁の母の気分になってくる。

このハバナでのフォトセッション、他では絶対にない唯一無二の写真が撮れることはもちろん、旧市街など主な見所を巡りながらの撮影となるので、市内観光も一緒にできてしまう(しかも荷物持ち兼ガイド付き!)という、まさに1粒で2度美味しい企画なのだ。ウェディングフォトでなくても、カップルでなくてもOK、せっかくこんなにフォトジェニックな街に来たのだから、スマホのセルフィ−だけでなく少し時間をかけて想い出作りをするのもいい。パパッとSNSにアップして終わりではなくて、引き伸ばしてプリントして部屋に飾りたくなる写真になるはず。そしてその写真を見る度にキューバを想い出してもらえたらすごく嬉しい。

ハチドリ、みーつけた

ハチドリはその名前の通り、蜂のようにブンブンと羽音を立てて飛ぶ。飛ぶ、というか長いくちばしで蝶のように花の蜜を吸うために、ものすごい速さで羽を羽ばたかせてホバリング(空中停止)するのだが、この時にブンブンブンというわけだ。北米南部から中米カリブ海域、南米にかけて生息し、日本には生息しないそうだ。

英語のHummingbirdハミングバードもhum=蜂の羽音からきていて響きも可愛らしい。一方フランス語は直訳すると「ハエ鳥」となるそうで、なんだか残念なネーミング。で、スペイン語ではいくつかあるようだけれど、一般的にはColibríコリブリ。でもここキューバではZunzúnスンスンと呼ぶ。これはやはりズズズーという羽音からきているものだと思うけれど、愛らしい見た目にもピッタリくる。

このハチドリ、キューバではポピュラーな鳥の一種でハバナの街中でも見ることができる。スズメのようにどこにでもいるわけではないが、花の咲く街路樹や庭木にいるのを見かけることがある。とても小さいので一瞬「虫?!」と思うほどだけれど、花の正面でホバリングして、花の中をつっついては次の花へと飛び続ける姿を見ると、思わず「あっー、スンスン(ハチドリ)!」と口に出して言ってしまう。そして急いでスマホを取り出し写真を撮ろうとするのだけれど、あっという間にどこかへ行ってしまう。比較的近くにしばらくいても、いちいち動きが素早いので写真に収めるのは難しい。

だが一度、じーっとしているハチドリに遭遇したことがある。

団地の中にある小さな農園の茂みの中、人の背丈もないようなところで花もないのにホバリングしているハチドリを見つけた。写真、写真とスマホを探しながら見ていると、なんと目線より低いくらいの位置にハチドリの巣と卵を発見、「ちーっちゃ!」

人形の麦わら帽をひっくり返したような巣の中に小指の爪ほどの卵がふたつ。「ごめんね、ママ!」と思いながら巣をつまみ寄せて卵を撮影した。親鳥は巣に触れんとする人間に近づきたくても近づけない、威嚇するように少し離れたところでホバリングを続けている。

卵の写真を撮ってから少し離れると、親は卵を覆うように巣の上に留まった。

キューバにはいくつかの種類のハチドリが生息するそうだが、その中には世界で一番小さい鳥マメハチドリもいる。キューバの固有種なので、キューバにしかいない貴重な鳥だ。体長6cmほど体重なんと2g、1円玉2枚!!卵を抱いていたハチドリの種類はわからないけれど、もう一回り大きく体長8cmぐらいだったので、マメハチドリはさらに小さい。卵もさらに小さいわけで、当然ながら世界で一番小さな鳥類の卵になる。キューバ中央部マタンサス州の南Ciénaga de Zapataシエナガ・デ・サパタは野鳥の宝庫でバードウォッチングでも有名なのだが、その近くの集落でマメハチドリを餌付けしているところがあるそう。知る人ぞ知る、なのかと思ったら観光バスも乗り入れて見学していくそうなので少し興ざめかもしれないけれど、遭遇率100%。どうしてもマメハチドリを見たい人はどうぞ。

木彫りのハチドリ。ちょうど実物大ぐらい。色目や羽、尾の形が少しずつ違うのでお気に入りを見つけてお土産に。

憧れのカヨラルゴ

カヨラルゴは、ハバナから南へ約100km、飛行機で40分に位置する島。もともと人が住んでいない島をリゾート開発した観光地で、訪れる人はほぼ100%外国人観光客、他のキューバのビーチと同じように白い砂浜とコバルトブルーのカリブの海が素晴らしいが、特に砂浜の広さと遠浅で穏やかな透明度の高い海は、群を抜いている。その人気度は、某旅行サイトのアンケートではバラデロの上を行くほど。が、いまだ行ったことがない。

ハバナからカヨラルゴへのフライトは1日1〜2往復あるがシーズンによっては週に4往復となり、フライト時刻の確定は前日で、遅延や欠航もしばしば。そのため時間に余裕のある旅行者でないと日程に組み込むのが難しいかもしれない。そんな中、2月から10月の火曜日限定でハバナ発カヨラルゴ日帰りツアーが出ている。

4:00 ハバナ市内各ホテルピックアップ、空港送迎

7:10 ハバナ−カヨラルゴ(約40分)

8:00 空港からマリーナへ移動、カタマラン船クルーズへ *イグアナの島上陸、サンゴ礁付近でシュノーケリング、シレーナビーチで自由時間、ランチは海鮮中心のビッフェ

16:30 マリーナから空港へ移動

18:30 カヨラルゴ−ハバナ、空港から各ホテルへ送迎

早朝出発となるが、フライトさえ定刻に飛べば比較的余裕をもってビーチを楽しむこともできそう。ハバナ市内〜空港の往復送迎(混載バス)が含まれていることも魅力。

「行きたい!」

と思ったらすぐに行動、カレンダーを見ると一番近い火曜日はなんと誕生日!

しかも今年は、半世紀を迎える特別アニバーサリー!!

自分へのプレゼントにカヨラルゴツアー、これしかない!!!

即、予約。

ところが、この時すでにコロナの影響で各種ツアーが中止になり始めており、こちらも「次の告知があるまで」催行しないとの返事。

あー残念。憧れのカヨラルゴ行けるのはいつの日か・・・

一度はバラデロ

キューバで暮らすようになるまで、バラデロへ行ったことがなかった。

バラデロは世界有数の美しいビーチでありキューバで一番のリゾート地、初めからここを目指す観光客、ここしか行かないリピーターも多い場所であるのに、10年間で十数回キューバを訪問したにも関わらず、だ。

ひとつはハバナから車で30分、Playa del Este (プラジャ・デル・エステ)のメガノビーチやサンタマリアビーチで、十分に素晴らしい白砂とコバルトブルーの海を楽しむことができたから。いつでも行こう!と思ったら水着着用でバスに乗っていくことができるお手軽リゾートがあるのだから、片道2時間かけてバラデロまで行く必要はない。

もうひとつは、その頃キューバ人にとってバラデロホテルゾーンはまだ「禁断の地」で、キューバ人の連れ合いと一緒に行くことができなかったから。バラデロの外国人観光客が利用するリゾートホテルをキューバ人が利用できるようになったのは、十数年前のこと。もちろんキューバ人用のホテルも昔からあるのだけれど、外国人用とは使い分けられていた。他の全国各地のホテルもしかり、だ。今では、どのホテルでもキューバ人も外国人観光客と同じように宿泊、利用が可能だし、バラデロのホテルも夏休みシーズンなどは家族連れのキューバ人たちで賑わっているのを見ると信じられない。

そういうわけで、初めてバラデロを訪れたのはキューバに移住後、観光ガイドの仕事を始めてお客様の案内した時。でも初めての時はホテルのロビーだけで、肝心のビーチは見ずじまいだった記憶がある。その後、何度かガイドで行ってビーチの方も「見る」ことができた。

バラデロ、世界で最も素晴らしいビーチの上位にランキングされる

確かに白い砂と青い海のコントラストはピカイチだ。ここほどヤシの木が似合うところはないと思う。ホテルの多くがオールインクルージブルで、宿泊中は飲食も含めたホテルの施設を利用することができ快適リゾートを楽しめる。「いや、別にリゾートとか向いてないし」と思っていたけれど、

好きな時に好きなだけ飲み食い=飯炊き不要

ビーチやプールでのんびり=子供野放し

夜はショーの一つでも見て、ほろ酔い気分で寝る=夜更かし後に帰宅の心配なし

そして朝は目覚ましなしで、好きなだけ寝る

日常回避、普段頑張ってる自分へのご褒美にはサイコー。

ということで、去年は家族でバラデロデビューも果たした。あいにく9月のビーチは荒れ模様で海には入れなかったけれど、オールインクルージブル最大限に利用して満足。

何はともあれ、一度は行ってみよ、バラデロ!

やっぱりビニャーレス

ハバナからの日帰り観光で人気のビニャーレス渓谷。カルスト地形によってできた奇妙な形のモゴテと呼ばれる岩山が連なり、一帯では世界一と称されるキューバ葉巻の材料となるタバコが栽培される。その緑豊かな美しい自然と伝統的なタバコ栽培の文化の融合は世界遺産にも登録されている。

ビニャーレス渓谷。ポコポコした面白い形の山、モゴテ

タバコの栽培が行われる時期は9月から3月ぐらいまでと限られているけれど、それ以外の時期でもタバコ農家を訪問すれば栽培から収穫、出荷までの流れを説明したり実際に葉巻の巻き方を見せてくれたりする。葉巻に親しみがなくても、キューバの主要産業の一つであるタバコ栽培について現地で知ることは興味深い。同時に農家さん達の暮らしぶりや、タバコ以外の栽培作物、飼っている動物なんかも見られて楽しい。

タバコ畑。右手奥の小屋で葉を乾燥させる

ハバナからだと日帰りで行くことが多いけれど、1〜2泊することがオススメ。一昨年の息子の誕生日旅行で行った時には、カサに2泊してゆっくり楽しんだ。

おなじみの観光地を見学したほか、ホテルのプール、山道をお散歩、モゴテが迫る自然の中のレストランでボリュームたっぷり、野菜もたっぷりのランチ。タバコ農家ではいろんな動物がいるのが楽しくて2時間も遊んだ。もちろん、キューンバンなバースデーケーキでお祝いも!夜は満天の星空の下、キャンプ気分でビール、これは大人のお楽しみ。

子供たちも葉巻体験?!

美味しい空気、美味しい食事、サイコー!

時間があれば乗馬を楽しんだり、宿泊者は早朝のバードウォッチングツアーに参加したりするのも人気だ。他にもサイクリング、トレッキング、最近はロッククライビングも可能ということで、アウトドア派向けのアクティビティーは充実している。

キューバといえば、青い海白い砂浜のビーチリゾートの方が有名かもしれないが、山派にまずオススメは、やっぱりビニャーレス。そして子供連れのファミリーにも是非!

ハバナから日帰りリゾート山編−Las Terrazas, Soroa−

のんびりしているとはいえ一国の首都ハバナに住んでいると、たまには都会の喧騒を逃れ自然の中へ行きたくなる。ありがたいことにハバナ市内にいても十分自然を感じられるところはあるのだけど、近年は車の排気ガスによる空気汚染もひどく(車が古いのとガソリンの質が悪いので一層ひどい)、時々キレイな空気を思いっきり深呼吸したい!と思う。そもそも田舎育ち、思えば人生初の首都生活がハバナ。

 

そこで、今回はハバナから日帰りでいける山リゾートLas Terrazas(ラス・テラサス)とSoroa(ソロア)へ行ってきた。キューバのメジャー観光地ランキングでいうとちょっと格は下がるかもしれないが、豊かな自然を満喫できる上、比較的レジャー施設も整っておりキューバ人にも人気のスポット。

 

ラス・テラサスは19世紀初頭、お隣の島国ハイチ独立後にキューバへ移住したフランス人達がコーヒー農園を開拓、この地へ移住したことに始まる。そのため現在でも当時のコーヒー農園跡がいくつか残っていて、見学することもできる。山がちなこの地にテラス状の段々畑を作って開拓したことからその名前がつけられたのだ。

ブエナビスタカフェ農園跡、奴隷たちの住居跡も残る

20世紀初頭になるとコーヒー産業も低迷しそのほかの作物を細々と作りながら農民たちが貧しく暮らしていたそうだが、キューバ革命後、同地域にモデル集落(Nuevo pueblo modelo)が形成され、周囲の住民がここに住まうようになった。それが現在でもラス・テラサスの湖畔にある建物群からなる村だ。

1990年代より観光業が発達するが、豊かな自然を破壊することなく環境保護を重視して開発を進めたことからエコビレッジとしても注目されるようになる。自然と調和した中で創作活動をするため、移住するアーチストも多い。

「マリアさんのカフェ」で美味しいコーヒーを・・・

中でも音楽家Polo Montañez(­-2002ポロ・モンタニェス)が有名で、彼の住んでいた家は現在博物館として公開されている。他にも見学できる画家のアトリエ兼ギャラリーがあったり、美味しいコーヒーの飲めるカフェや手作りの小物や香水を売る店があったり、と緑に囲まれた湖畔の散策は十分にリゾート気分を味わうことができる。ゆっくり滞在するのであれば、周辺でバードウォッチングやトレッキングなどもできるそう。

Las Terrazas 湖畔にあるLester Campaのアトリエ

 

隣にあるソロアもラス・テラサスと一緒に訪れたいところだ。ここもコーヒー農園を営むフランス人の入植により開拓されそうだが、国内有数の多雨地帯で豊かな森とそこに生息する多種多様な蘭が有名。ここで必ず訪れたい場所のひとつがラン園で400種類ほどの蘭を栽培し、一部展示している。そしてキューバに移住した日本人園芸家竹内憲司氏が一時、蘭の研究資料整理にあたっていたというから、日本人としてもとても興味深いところ。

様々な種類の蘭

ほかにも鬱蒼とした林の中の山道を歩いて行った中にあるSalto de Arco Iris(アルコイリス滝)という清涼感溢れる滝を見に行くのもいい。

ソロアの滝。水に入ることもできるが、山の水はいつも冷たい。

またこの滝の入り口脇へ入って行くと、山の頂上に展望台がある。歩いても行けるが、今回は馬に乗って行ってみた。途中、ガイドのお兄ちゃんが、

「あの山の頂まで行くぞ!」

とえらく上の方にある岩場を指差す。

「嘘だ」

と思って軽くかわしたのだが、本当にそこが最終目的地の展望台だった。

馬に乗って頂上を目指す。途中にも絶景ポイントあり。

キューバ、ちょっと田舎に行くと馬や馬車がまだ普通に市民の足だったりするのだけれど、観光で乗馬できるところも多くここ数年で乗馬歴がぐっと増えた。でもこれほどの坂道で乗ったことはなく緊張感と冒険気分がグーンと上昇、そして頂上からの360度絶景に

「おお〜!」

この乗馬でゆくソロア展望台、なかなかのオススメ。

 

森の匂い、湖畔のほどよい湿気、滝音、見晴らしの良い山の上ですーっと深呼吸。ハバナから日帰りリゾート満喫、久しぶりに自然を五感で感じた気がした。