ハリケーンの季節:キューバの防災

5月から11月の雨季はキューバのハリケーンシーズンでもある。日本でいうところの台風に相当する発達した熱帯低気圧が、カリブ海・メキシコ湾を含む大西洋北部や北太平洋で発生するとハリケーンと呼ばれる。

スペイン語では、Huracánウラカン。

このウラカンが最も発生しやすくキューバに影響を与えるのが9〜10月と言われている。今年もこれまでにすでにいくつかの熱帯低気圧がカリブ海域で発生したが、ハリケーンクラスまで発達せず、またキューバに接近することもなかった。それが8月の後半になって立て続けに2つ、いずれもハリケーン手前のTormenta Tropical トルメンタ・トロピカル(熱帯暴風雨)がキューバに接近した。Marcoマルコはキューバの南西付近で発生し、西のユカタン半島の間を抜けて北上したので幸いほとんど影響はなく、通過後の24日にはハリケーンとなってアメリカ、ルイジアナ州沖へ向かった。一方Lauraラウラは東隣のハイチとドミニカ共和国で死者が出るほどの被害を出し、そのまま23日から25日夜半にかけて、キューバ東端をかすめて南岸海上を島に沿うようにして北西へ向かった。

左がマルコ、右がラウラ。Photo by NOAA

ラウラは当初の予報で上陸してキューバを横断し勢力を強めながらハリケーンに発達するとのことだったので、数日前から警戒し十分な対策が取られた。ハバナは24日午後から風が強まって雲行きが怪しくなり、海も白波が立って荒れ始めた。我が家は夜7時過ぎには停電(他の多くの地域でも停電したとのこと)、早々に横になって収まるのを待つ・・・窓ガラスがガタガタとして強い風が吹いているのが感じられたが、それほどひどい暴風雨という印象はなかった。夜半過ぎには電気も回復し、25日朝には風はやや強いものの晴れ間も見えるほどで我が家の周辺では大きな被害もなかったことにホッとした。ラウラは結局、夜のうちにキューバの最西の州Pinal del Ríoの一部を2時間ほどかけて縦断し、北の海メキシコ湾へ抜けた。全貌はまだ分からないが、幸い大きな被害は出なかった模様だ。

ところで、キューバではこうした災害への対応でも独特のシステムが取られている。Difensa Civil市民防衛と呼ばれるもので、ハバナにある全国防衛組織本部を中心に想定されるあらゆる災害や非常時に国を守るため全国を網羅する仕組みが存在する。直轄の組織や軍だけでなく学校、病院、店舗、企業など要はありとあらゆる公共組織や企業がこのシステムに組み込まれているので、なんだかの自然災害が発生した場合でも、本部で専門家とともに対策が練られ各指令を関連する組織に発信、すぐに現地で実行、国民が一丸となって国を守る、というわけだ。

市民防衛の日には防災訓練ならぬ、防衛訓練が各地域で行われる。若いおねーちゃんたちも手榴弾投たり、銃を構える。これって本当に役立つ!?

ハリケーンの場合、災害防止対策が徹底しすぎるほどに徹底している。交通機関はそんなに早く止めなくてもいいだろう、というくらい何日も前から完全運休、病院などに避難所を準備して沿岸部など危険地域に暮らす人、高齢者や子供、妊婦など弱者をごそっと避難させ、学校、公共機関や店は有無をいわさず閉鎖。農作物や家畜の被害も最低限に留められるよう国からの指示で対策がとられる。テレビやラジオでは24時間ひたすら情報を流し続けるので、ハリケーンが接近する前にいささか疲れてしまうほど。しかしそのおかげで付近の他国で大惨事となっても、キューバでは人的被害はゼロといった具合で被害を最低限に抑えることができている。

これまでにも何度かキューバでハリケーンを経験したことがあるが、日本の台風と違って接近、上陸してからが長いような気がする。台風の場合は日本に上陸すると勢力が弱まってスピードを上げて北上、というパターンが多いけれど、ここでは陸に近付いて上陸してからもノロノロあるいは一箇所に停滞していつまでも動かない、そしてさらに勢力を増す、なんてこともある。当然の結果、長時間にわたって強い雨風が続くので人々はなかなか身動きが取れず、家屋や農作物などの被害もより大きくなってしまう。

前回ハリケーンがハバナに接近して大きな被害が出たのは2017年のIrmaイルマだったが、この時もキューバの東部北岸からハバナ付近を通って北上するのに1週間近くかかった。通過後もハバナでも停電が続いて不便な日が続き、マレコン添いの建物も大きな被害を受け今でも建物の修復がされず放置されているところもある。農作物は長期にわたって影響があり、壊滅的な被害を受けた東部のカカオは翌々年になってやっと収穫が可能になったくらいで、ハリケーン前のレベルへ回復には程遠い。

ハリケーンイルマの後、小学校の大きな木が根こそぎ倒れた。

今年はコロナの感染による影響がいまだ続く中でのハリケーンシーズン、コロナ感染に加えてハリケーン被害というのは辛い。どうか各地で惨事を引き起こすようなハリケーンが発生しませんように、と祈るばかり。

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