なんてったってハバナ

海外からキューバを訪れる場合、そのほとんどがまずハバナへ到着する。だから多くの人にとって初めて目にするキューバの都市がハバナ、この街の印象がこの国の第一印象となる。

初めてキューバを訪れたのは、2005年5月。雨季の始まりの5月は雨が多いが、ハバナの空港へ降り立った時もどんよりとした曇り空だった記憶がある。タクシーの中から見るハバナの街はその鼠色の重い空の色と同じようにあまり色がなく、スローガンの看板が目につき社会主義国を感じさせた。

「¡ Viva Fidel ! 」

「Vamos bien…」

他の街に見られる華やかな看板やネオンのかわりにスローガン

この最初の滞在はまったくの観光だったのだけど、あまり観光気分だった記憶がない。今ほど旅行者も多くなくカラフルなクラシックカーが目立たなかったせいもあるし、いわゆる観光スポットへあまり行かなかったからかもしれない。公共交通は全然わからないし、タクシーもそれほど多くない上に高いので、ハバナ市内のほとんどを徒歩で移動した。滞在先のハバナ大学近くのカサから革命広場、旧市街、ミラマルのカサ・デ・ラ・ムシカまで。今思うと、ものすごい距離を歩いている。5月末といえばもうすっかり夏の日差し、汗だくになりながら、ひたすら歩いた。おかげで街の大きさ、高低差、地区ごとの街並みや雰囲気の違い、海沿いのマレコンの長さ、ハバナを丸ごと実感でき、今でもあの時の感覚がハバナの街を歩く時の基準となっていることすらある。どこまでいってもあまり変わらないコロニアルでくすんだ色の古い建物、雨上がりの水溜りだらけの道路、シャッターの閉まった店、上半身裸の男性、頭にカーラー巻いてストッキングかぶった女性、道で遊ぶ子供たち、痩せこけた犬、そしてあちこちから聞こえてくる音楽・・・これが最初のハバナだった。

2005年のカピトリオ、化粧直し前
セントロハバナのあたり。この道もなんども往復した

それから、ハバナは帰ってくるところ、になった。

ここ15年で個人経営の店やレストランは増え、旧市街には新しいホテルが次々にオープンし、クラッシックオープンカーが観光客を乗せてマレコンを走るようになったけれど、あの時と同じように街を歩いてみると、目にする景色も人々の暮らしぶりもそれほど変わらない。今でもハバナの街を歩くのが大好きだ。いつも混んでいるバスを待つより歩いた方が早いということもあるけれど、ひとりの時はまず歩く。時には少し遠回りしてマレコンも歩く。なんといってもマレコン沿いのハバナの街並みが一番だと思う。この景色を見る度に、かつて住んでいた鴨川沿いの京都の街並みを想い出す。街を少し離れて帰ってきたときに、鴨川沿いを自転車で走ると「あー帰ってきたなあ」といつも思っていた。今、どこかからハバナへ帰ってきてマレコン沿いを行くと、やっぱり同じように「帰ってきた」と感じる。どちらも自分が暮らす街のとっておきの景色。

はじめてのマレコンは、こんな曇り空のした、霞んで見えるハバナの街並みもよい

ハバナはやっぱり歩いてなんぼの街だ。旅行者の方にも歩いて歩き回って、見て、聞いて、感じてそれぞれのとびきりのハバナを切り取って帰ってもらいたい。

アーネスト・ヘミングウェイ国際カジキ釣り大会−Ernesto Hemingway Torneo Internacional de la pesca de la aguja

人生の後半の大部分の時間をキューバで過ごし、海と釣りとお酒が大好きでキューバを愛してやまなかった作家ヘミングウェイ。ハバナ市内には今でもヘミングウェイゆかりのホテルやバーがあり、観光名所として連日多くの人であふれている。生前ハバナ郊外に購入した屋敷は現在ヘミングウェイ博物館となって、作家が暮らした当時のままの様子を見学することができる。

ヘミングウェイ博物館には欧米からはじめ多くの観光客が訪れる。

ハバナから東へ車で15分ほどのところにある小さな町、コヒマルはヘミングウェイが釣りに出るための船を停めていたところ、いまでも毎日ここから漁師たちが船を出すのどかな漁村、『老人と海』の舞台を見に博物館とともに足を伸ばす人も多い。

現在のコヒマルの漁港。ハバナ近郊では最大の規模で、今も毎日多くの船がここから漁に出る。

そのヘミングウェイの名を持つマリーナが、コヒマルとはハバナを挟んで西、反対側の海岸にある。キューバでは最大規模の国際マリーナで、常に各国の船が停泊している。他のヘミングウェイ関連の名所に比べて普段観光客が訪れることは少ないが、1年に1度開催されるヘミングウェイ国際カジキ釣り大会は、世界各国の釣り好き達が集って賑やかなイベントだ。今年の大会は11カ国18チームが参加して6月10日から15日に行われた。69回目を迎えた歴史あるこの釣り大会に日本から初めての参加者があったのだが、なんとこちらのお客様のご招待で1日船に乗って参加することになった。

日本チームの船、ピラール1号。

これまでにもダイビングの時など1日船上で過ごす経験はあるものの、今回のような小さな船で「釣り」をしながらの船体験はない。カジキ釣りはもちろん船からの海釣り体験も初めて・・・大会前にトーナメントのルールを翻訳してその内容を知ったが、なにぶん釣り自体がほとんど未知の世界なので、よくわからない部分も多かった。釣りといえば釣り竿持って行うものだとばかり思っていたので、船に竿を固定して釣り糸とルアーを海中に流し、船を常に進めながらヒットするのを待つ、という釣りの方法があるなんて全く知らなかった。カジキ釣りは、カジキの特性を生かしたこのトローリングと呼ばれる方法で行われるのが一般的らしい。でも、これじゃあ釣り人の腕はどこで試されるんだ?

船に乗った当日。海は白波ひとつ立たない静かなもので、湖面を行くような穏やかさ。朝9時のスタート時に一斉に方々へ船が向かって行く様子は壮観だった。

競技スタートの合図とともに各船が一斉に沖に向かって進む。

しばらくは海から見えるハバナの景色を楽しんだり、真っ青な海の美しさにうっとりしたりしていたけれど、そのうち退屈してきた。釣りなんてそんなものだろうけど・・・午後には船長の横に座って、しばしおしゃべり。2階の操縦席で周辺をじーっと見回す船長は、漠然と針路を決めているわけではなく海の色、潮の流れ、海面に浮く海藻、鳥の群れといったものを観察しながら、魚のいる場所にあたりをつけて舵をとっていた。とすると、釣り人の腕ではなく船長の舵取りが一番の決め手なんじゃないか?

コヒマルからもう少し行ったあたりまで進めた後、Uターンして陸近くを並走するように航路をかえた。ハバナの街の中心が近い。こんな陸から近いところでカジキみたいな魚が釣れるのか?と思っていたその時、リールのひとつがザッーと音を立てて動き出した。その瞬間、船長、船員たちが素早く反応する。竿を外して釣り上げ担当の参加者に持たせ、定位置に座らせる。船長はまだ2階で舵を握ったまま。見習い中の若い船員を呼び、船長が魚を捕獲する瞬間に下へ降りた際の操縦の仕方を指示する。まだ獲物は船尾の先、釣り糸の先端に左右にもがきながら泳ぐ大きな姿が見えた。

船長と船員。10年来のコンビは息のあった様子でカジキを揚げる。ハバナが近い。

「ブルーマルリン(マカジキ)!」

水面近く少し飛び跳ねた瞬間に、その大きさがわかり驚く。

「1.5〜2mはあるぞ、でかい!」

まだ2階の操縦席にいる船長は、飛び跳ねて大喜び。

慣れない手つきで竿を持ち、必死でリールを巻く彼に冗談混じりでハッパをかける。

巨大なカジキを少しずつ寄せていく。ここを見るとやっぱり釣り。

もう直ぐそばに黒い影が近づいてきて、尖った口先の角が水面から顔を出し、全身で水面をバシャバシャと叩く。およそ30分弱。

船に近づいて暴れまくるカジキ。

「もう少し!」

と一瞬船の脇でその姿を見たか見ないかのうちに、口元のナイロンの糸が切れてサーっと水の中に消えてしまった。

「これでいいの?」と思ったが、そもそも釣り上げても写真記録だけとってキャッチアンドリリース、タグ付けも強制ではないので、規定通りに写真が撮れていればポイントとして加算される。一般の釣りに比べると物足りないような気もするが、競技としては合格の捕獲だった。

この日、日本チームはこの1匹のみ。でも18チーム中カジキをヒットして得点したのはわずか4チームで、暫定1位。その後、4日間の競技日程を終えて日本チームは2匹のマカジキ捕獲で第4位。初出場でしかも全員素人のチームで大健闘。全ては優秀な船長と船員のお陰とはいえ楽しい思いをさせてもらった。

それにしてもハバナの街並みをバックにマカジキとの格闘、想像以上に力強く、美しく、興奮。

 

ヘミングウェイ国際カジキ釣り大会。アメリカとの国交回復直後の2017年の大会は80チームほどの参加があり大盛況だったそうだが、今年は直前のアメリカ政府のキューバ対策(アメリカ人のキューバ渡航制限の強化)により、予定していたチームの不参加もあって数的には寂しいものだった。それでも3チームのアメリカからの参加、そのほか10数ヶ国の参加は国際交流という点でも意義のある大会といえる。ヨットクラブの支配人が「国と国の間に壁をつくるようなことをせずに、橋渡しとなるようなイベントに」と話してくれたのが印象的だった。高価な遊びではあるけど、ヘミングウェイの精神、キューバへ対する想いをつなぐこの大会、いろいろな意味で今後も途切れることなく続いたらいいな、と思う。

春休み、スペイン帆船見学とマレコン散歩―ハバナビエナール―

キューバの学校は9月が新学期の始まりで、年末年始に10日間ほどの冬休み、4月に1週間の春休みがあって、6月末が学年末と一応3学期制となっている。今年は4月15日から1週間が春休みだった。

休みの期間、親たちを悩ませるのは昼食の準備(小学校は一応給食がある)と退屈する子供たちの「どこかへ連れていってよ」攻撃。これといった娯楽がなく子供たちが楽しめる施設や公園も数知れているキューバでは、限られた子供を連れていく場所がものすごく混む。ハバナなら動物園、旧市街にある小さな遊園地、郊外のレーニン公園といったところか。自家用車がないから、そこへ行くための交通機関も混んでうんざりしてしまう。

見学のために長蛇の列!

幸いどこかへ行くより近所の子供達と一緒にいるだけで楽しい我が子は、朝から晩まで本当によく遊んでくれて助かった。それでもちょっとはお出かけしようか、と行ったのがハバナ湾に入港して数日間滞在していたスペイン海軍学校の訓練船、Juan Sebastian de El Cano(フアン・セバスティアン・エル・カノ)号の一般公開見学と、マレコンを中心に開催されているハバナビエナール(造形作品の屋外展覧会)。

スペイン国旗がキューバの青い空に映える。植民地時代を彷彿?!

Juan Sebastian de El Cano号は1927年造船の帆船。見学時はもちろん帆は張ってなかったのだけど、歴史を感じる船体は美しく丸ごと芸術作品。ちょうど入港時にハバナ湾の入り口付近を走行する姿を見たけれど、それは素敵でうっとりするほどだった。

ハバナビエナール、5月18日まで開催中。

ハバナビエナールは国内外の造形作家たちによってマレコン沿いのあちこちにアートが出現、いつものマレコン散歩がいっそ楽しくなるイベント。この日は波が少々高くて海側のアートは波しぶきがかかってしまっていたけれど、真っ青な海と空の下、カラフルなアートが映えた。

さあて、この休みが終わったら学年終了まで2ヶ月半。そのあとは長すぎる夏休みが待っている。

ハバナで話題のレストラン、Doña Alicia(ドニャ・アリシア)

キューバには飲食店でも国営のもの、民営のものがあって民営レストランをParadar(パラダール)と呼ぶ。と言ってもの看板に「Paradar」と掲げている店はほとんどないし、国営のレストランも「うちは国営」とうたって商売はしていないので、これらをパッと見て見分けるには難しい。一概には言えないけれど、裏通りや不便な場所にあって規模が比較的小さく内装が今風でお洒落なのはパラダール、広場や観光客のよく通る道に面した大きめのコロニアルな建物を使いキャパも多めなのだけど、内装はイマイチセンスなく古めかしいのが国営レストラン、といったところか。料理の質やサービスは間違いなくパラダールの方が良い。

ところで少し前から気になっていたパラダールがあった。

セントロハバナ、Sagrada Corazón de Jesús(サグラダ・コラソン・デ・ヘスス)教会の数件隣、時間や曜日関係なく午後はいつも店の前に多くの人が待っている店Doña Alicia(ドニャ・アリシア)。客のほぼ100%がキューバ人。

お店の看板。アリシアおばさんは実在した方らしい。

最近はパラダールも観光客だけのものではなくて、「ちょっと外食でもしようか」とキューバ人達が足を運ぶような店が増えたように思う。食に対して冒険をしないキューバ人、人気なのは安くてがっつりキューバ料理を食べられる店。

だからこの連日大賑わいのレストランもきっとそういう店だろうと思い、夫を誘って先日平日の昼間に行ってみた。12時ちょうどに到着、幸いまだ店内は空席があってすぐに案内され着席。

座ってすぐに驚いたのは、各テーブルに備え付けられたタブレット。なんとタッチパネルにメニューが提示され、オーダー、お会計と全てできるシステム。

表示はスペイン語だけど写真があるから、言葉がわからなくても安心。

「日本の居酒屋か回転寿司じゃん!!!!」

ワクワクしながらパネルをタッチしてメニュー拝見。一般的なキューバ料理に加え、キューバ人が大好きなピザとパスタから甘いデザートまで種類も豊富だった。各メニューはもちろん写真付きで、人気度数が星で表示、本日提供できないものは「只今できません」とはっきり表示。これは観光客にもありがたい。料金は旧市街のパラダールより若干安め、比較的良心的。料理のボリュームはびっくりするほど多くないけれど、味はザ・キューバ料理。副菜もささやかな野菜に揚げ物で決まり。盛り付けはちょっとカフェ風でよろしかった。

キューバ料理をカフェ風に盛り付けるとこうなる。

 

数日後。夫と二人でDoña Aliciaへ行ったことが子供にバレてしまい、同じ週の土曜日ランチもこちらですることになった。

「週末だし、すごい待たされるんだろうなあ。」

と覚悟して向かいいざ行列へ。先日は並ばなかったので気がつかなかったが、ドアマンがちゃんと名前と人数をきいてチェックし、順番に案内してくれるようなっていた。しかもこの順番待ちをしている人たちの名前リストが外の大きなディスプレイパネルに表示され、おおよその待ち時間も予想できた。またこのディスプレーにはメニューも順次表示されて待ち時間を飽きさせない。

いつも店の前には大勢の人が待ってる。

さらに先日は店内手前の席だったので気が付かなかったけど、店の中央を仕切る壁付近には小さな子が遊ぶスペースが設けられていて、親達は店内を駆けまわる子供を野放しにしなくてすむ。

トイレも自動で電気がつくし(いつものように電気を探してしまい店員さんに教えられた。うちの子も「電気がなーい!」と言って戻ってきた)、手を乾かすドライヤーも設置されているし(これは最新のパラダールには時々ある)。

すごーいなキューバ、いつの間にか日本並みのサービスが導入されている(むちゃくちゃピンポイントだけど・・・)

うちの子は生まれた時からタッチパネルのある時代の子なので、席に着くなりパネルを操作、キューバで日本の回転寿司と同じようにオーダーできると知って大喜び。そしてこそって聞いてきた。

「ねえ、どうやってでてくるの?回ってくる?」

さすがにまだ回転マシーンは導入されていない。

内装はファミレス風?

料理の味はまずまず、正当なキューバ料理。でも人気の秘密はキューバ初のサイバーレストランだからだと知って納得。しばらくは混雑するだろうな。

 

Doña Alicia

住所:Ave.Salvador Allende(Carlos Ⅲ)esq.Padre Varela(Balascoaín), Centro Habana、サグラダ・コラソン教会近く

営業時間:12:00-1:00

本の国際見本市―Feria internacional del libro en La Habana

毎年2月に行われる本の国際見本市、ハバナで年に一番賑わうイベントのひとつと言っていい。本年度は2月7日から17日まで開催、ハバナを皮切りにその後全国各都市を巡回する。

メイン会場は観光スポットとしても知られるハバナ湾に面したカバーニャ要塞、世界遺産にも指定されている要塞の中が期間中多くの人でごった返す。この盛況ぶりが半端なく、観光客たちは一体何事かと驚くほどだ。要塞の中だけでなく、要塞周辺の空き地や駐車場にも食べ物の屋台が出たり、子供の遊具や移動遊園地が出現したりして、遠目にも何やら面白いことをやっていることがうかがわれる。

移動遊園地も登場!遠目にもなにやら楽しそう。

乗用車を持つ人が少ないキューバ人たちの移動手段はバス。通常の路線バスに加えて、ハバナ市街中心地からは無料シャトルバスも出ていて、それらを利用して会場へ到着、バス停から歩いて会場入り口までゾロゾロ移動、チケットを買うのに長蛇の列・・・。毎度お馴染みの風景。

入場口前の人の波。食べ物の屋台を覗きながら歩くのも楽しい。
要塞のお堀もご覧の通り。

この混雑が嫌なのだけれど、我が家からバス停ひとつのご近所でもあるし毎年1度は足を運んでいる。今年も息子と二人で週末の土曜日に訪れた。平日でも大概な人なのに週末、最終日近くとなるととんでもない人、人、人。息子は遊具や食べ物には大して興味を示さず(ホッ!)、友達が「Feria で買った」と言って見せびらかしていたオモチャを探している模様。前日には父親と行き、3Dメガネをかけて見ると飛び出す恐竜の絵本を買ってきた。去年も恐竜本だったような・・・まだブームは続いているのか。結局お目当てのオモチャは見つからなかったので、もう1冊恐竜フィギィアのおまけがついた雑誌を買った。雑誌はいらんのだろうけど。

子供向けの本、グッズが多く親たちには悩ましい?!

私も少しは本を見ようといくつかのセクションをのぞいた。最近はスペイン語の本を読む時間はあまりないのが残念だけれど、本をあれこれ物色するのはやっぱりいい。

フィデルの本もたくさん。こちらは去年の様子。

見本市で売られているのはキューバ国営の出版会社が出版する本=人民ペソ支払い、と各国の輸入本=CUC(兌換ペソ)支払いがある。残念ながら読書の習慣があまりない中南米において、キューバ人はよく活字を読む。本も自国でちゃんと出版して販売、しかも激安。1冊10ペソ(約40円)以下が普通で、辞書やちょっとボリュームのある本でもせいぜい20ペソ(約80円)ほど、平等主義という体制のもと、誰にでも手にすることができる価格に設定されている。キューバ革命直後、フィデルらが行った識字率向上運動の成果、現在も識字率は98%以上と先進国並みであり教育水準も高いといわれるが、読書の大切さを国民に浸透させようという意図がこの国をあげて行われるイベントを見てもわかる。

「読むことは育むこと」

といっても、見本市に皆が集まるのは必ずしも「本」目的ではなく、娯楽の少ないキューバにおいてみんなでお出かけするにはもってこいの場所だから、というのも大きいのだけど。

何はともあれ、2月はFeria(見本市)の月、今年も大盛況に終わったのでした。

360度Habana、ハバナで一番高い展望台

2019 年、新年が明けた。

キューバのお正月はそっけない。家族や友人同士集まってのパーティーは大晦日の晩、0時に日付が変わるのを皆で待ち、年明けと共に「おめでとう!」の挨拶を交わす。最近はキューバ人も携帯電話を持つようになったこともあり、夜中の混線を避けて31日の昼間から「新年の挨拶」メッセージや電話があったりして、年が明けてから「おめでとう」を祝う日本人の感覚にちょっとそぐわず変な感じがする。

そして元旦は静かなもの。1月1日は新年でもあるが、キューバにとっては「革命勝利の日」という大事な祝日でもある。特に今年は1959年のその日から60周年の区切りの年ということで、何か大きな催しがあるのかと思ったけれどハバナは静かなもので、例年通りサンティアゴ・デ・クーバのホセ・マルティやフィデル・カストロの眠るサンタ・イフィヘニア墓地で式典があったくらいだった。

おなじみのチェ・ゲバラとカミーロ・シエンフエゴスの肖像。

いつもの週明けと変わらない感じで、2日にはぼちぼち仕事始め。3日、たまたま近くへ行く用事があったので今年初の革命広場へ。いつもは広場のチェ・ゲバラやカミーロ・シエンフエゴスの肖像の前で写真を撮るだけでホセ・マルティ記念館へ行くことはないのだけど、この日はまだ学校が休みの息子も一緒だったので、2005年初めてキューバを訪れた時以来、実に13年ぶりに入場した。

ホセ・マルティと記念館

ホセ・マルティはキューバ人の誰もが間違いなく尊敬するキューバの英雄だ。スペインからの独立に尽力した一人だが、フィデルもマルティを師と仰ぎ、彼の思想をもとに国を作ろうとした。そのため現在のキューバという国を知るためにはマルティの思想を知らねばならない、とも言われる。そのマルティについて様々な展示がなされているのが、革命広場にある一際目立つ高い建物内にあるホセ・マルティ記念館だ。ここでマルティに関する展示を見た後は、建物最上階の展望台へ。東西南北ぐるりとガラス張りとなっていて、標高約110mハバナで一番高いところから360度市街を見渡せる。

南、記念館の裏にある共産党本部の建物。展望台に登らないとなかなか見られない。

13年前見たハバナの風景とたいして変わっていない。今も目立つのは旧市街のカピトリオといくつかの古い高めの建物、新市街のホテルハバナリブレなどいくつかの高層ビル、北には青い海の水平線が広がり、南は遠くに山並みが見えて街の広がりが対して大きくないことが知れる。

東、旧市街方面、カピトリオのドームが見える。
2005年、カミーロの肖像がまだない。
北、右端にホテルハバナリブレ。
2005年。建物の様子はほとんど変わらないけれど、今より木々の緑が小さい。

お天気が良かったこともあり、キューバらしい青い空の下のハバナを見るのはなんとなく晴れ晴れとした気持ちになって「正月らしくていいかな。」と思った。

キューバインターネット最新事情、その後

先日12月6日にスタートした携帯電話への3G導入、その後。

キューバ人は新しいもの好き、特にデジタルものには敏感でモノはなくても最新情報はすぐにキャッチ、口コミですぐに広まる。今回も当日からやはり街はその話題であふれていた。会う人みんなが「もう使ってみた?」と挨拶がわりに尋ね、新聞にも関連記事が連日掲載され関心の高さが知られた。

反応は様々のようだけど、事前に行われたお試しキャンペーンで起きた混乱もなく、順調なスタートといえそう。利用者の話を聞くと、

「思ったよりも接続はいい。」

「スピードが遅い。」

「メール送受信やネット通話だけなら十分。」

「Wifi接続よりもずいぶん料金が高い。」

といった声があがっていて、サイトによって使い分けをすれば有効に利用できそう。使用した容量、パッケージ料金の残金が一目でわかるアプリも国営電話会社ETECSAが無料で提供しているので、こちらを使えば接続をコントロールすることもできて安心。

が!こういった情報を得て、周囲の人たちの反応も見たのに、実はまだ試していない。

なぜなら現在使用しているスマホですぐにパッケージが購入できないことが判明したから・・・そもそもあまり携帯電話でネットに接続することがないので困りはしないからいいか。ということで、実践はまだしばらく先になりそう。

 

ちなみにこちらの3Dサービス、キューバの携帯電話回線を持ち、ネット接続のためのアカウントを所有していないと利用できないので、旅行者の方はこれまで通りWifiスポットへ行って繋がなければならないので、悪しからず。

キューバのインターネット事情が世界に追いつく日はまだまだ遠いかぁ。

本日開始、新サービスはいかに?ーキューバインターネット最新事情ー

キューバのインターネット環境は呆れるほどに遅れているけれど、なければないでどうにかなるもので、私も仕事で使用する以外はほとんどネットに接続しない。仕事でなければキューバ人同様、海外に暮らす家族や友人とのコミュニケーション手段として使うくらいで、それもキューバ人以下の頻度でしかない。

でもやっぱり他国並みの環境にあって欲しいとキューバ国民の誰もが思っているし、そうあるべきと政府も思っているし、そうなるよう努力をしている。他の制度や生活環境改善に対する取り組みと比べたら、ネット環境の整備はここ数年で目に見えて向上し、この国にしては素晴らしいスピードで「進化」しているように思う。

これからは路上でWifiつなぐ姿も少なくなる?

そして2018年12月6日、ついに

キューバ全土で3G導入、どこでもスマホでネット接続可能なサービスが開始!

と聞いて思い出すのが、ここ半年ほど何度か行われた「3Gお試し無料キャンペーン」による混乱・・・キャンペーン期間中、無料ということもあってアクセスが集中したこともあるだろうけれど、ネットの接続はおろか携帯電話が不通になったり、メッセージが送れなかったりと大々的に不具合が出た。

しかしこの混乱から国営電話会社エテクサは「貴重な資料」を得て、今年前半に公言していた通り年内3G導入に踏み切ったわけだ。

国営電話会社のサイトにある新サービスはについてお知らせ

そこで気になるのがお値段の方。現在、キューバのインターネット(Wifi)接続料金は通常1時間=1CUC(約120円)。今回、3G接続にかかる料金は、

携帯電話通話用チャージ料金から引き落としの場合:0.10CUC/MB

3G専用パッケージプラン:7CUC/600MB、10CUC/1GB、20CUC/2.5GB、30CUC/4GB

わからん・・・いったいこの料金で、ここのネット環境でどの程度の利用が可能なのか想像できない。料金も繋がり具合もよく分からないので、しばらくは様子を見てどんなもんだか街の噂が耳に入ってくるまで待とうかと思う。

よってせっかくの最新情報なのだけど、実体験レポートは後日。中途半端でスミマセン。

ハバナ500年アニバーサリーまでのカウントダウン

11月16日はハバナの誕生日、 創立記念日だった。

ハバナ創立記念日恒例、テンプレテ横のセイバの木の周りを3回周ってお願いごと。

ハバナの街が創られたのが1519年、今年で499歳のハバナ。500年を前に少し前からいたるところで「La Habana 500」の文字が目につき始めた。

何年も前から行っているハバナのシンボルカピトリオの修復も、来年にはすべて終わって全身生まれ変わって私たちの目の前にその完璧な姿を見せる(はず)。

ハバナを訪れる観光客が必ず足を運ぶ革命広場では、1ヶ月ほど前から周辺を囲むように大きな穴を開けて工事をしているが、これもハバナ500年事業の一つで電線を地下に埋める作業だそう。確かにチェゲバラの肖像の前で写真を撮るのに、顔の前をベローンと電線が通っているのは邪魔だしね、と納得。そのほかの場所でも電線の地下化、電灯をLEDに取り替えを進めていて、これらも全部記念事業とのことだ。街中が明るくスッキリするのはよいけど、これでまたそこら中の道路が穴だらけになって、いきなり通行止めが頻繁にあるのはどうかと・・・まあ、この辺はハバナの人たちは慣れっこか。

この電線が消える日も近い。

もうだいぶ前から観光客の急増でホテルの客室不足が問題となっているが、今、ハバナの街中はホテルの建設ラッシュ。つい先日も旧市街マレコン近くに5つ星ホテルパッカーズがオープンした。そのほか新市街ではハバナで最も高層ビルとなる予定のホテル建設が始まり、旧市街の中も崩れかけた大きなコロニアル建物のほとんどが、ホテルと化す(予定)という。これらの建設現場の前にも「OBRAS POR EL 500 ANIVERSARIO de LA HABANA」(ハバナ500年記念事業)の看板。その数、旧市街だけで10軒を超える。すでに着工しているものもあれば、まだ看板がついているだけのところもあるけれど、それにしても 建て過ぎなのでは?の感。そもそもそんなに需要があるのか?ホテルの前にやることもっとあるのでは?

ハバナの街のいたるところにこの看板。

市民の誰もがそう思っているらしく、先日からハバナ500年に向けての報道の中では、

「500年に向けての事業はその年に完結するものではなく、ここから始まるもの、すべては未来のハバナのために!」

と強調している。

ん?似たようなフレーズがキューバでは繰り返されてきたことに気がつく。

「革命は終わらない、今も、そしてこれからも続く、すべてはキューバ国民の未来のために!」

ということで、500年事業も終わらない。きっとハバナがミレニアムを迎えても・・・

 

とはいえ500年を迎えるのはおめでたいことだし、便乗でもなんでも500年の記念の年が盛り上がるのは悪いことではない。その中心にハバナの街に住む、ハバナを愛する人たちがいたらいいな、と。

カバーニャ要塞から。大好きなハバナのひとつ。

La Habana, real y maravillosa−素晴らしきハバナ

永遠に。

キューバでBalletバレエを

日本ではあまり知られていないかもしれないが、キューバは世界的にもバレエが有名で、素晴らしい踊り手を数多く世に送り出している。ハバナの中央広場パルケセントラルにある国立劇場、Gran Teatro de La Habana(グラン・テアトロ・デ・ラ・ハバナ/ハバナ大劇場)は主にバレエの公演が行われ、キューバが輩出した偉大なバレリーナAlicia Alonso(アリシア・アロンソ1920〜)の名が冠としてつけられている。

2018年国際バレエフェスティバルポスター

今年も国際バレエフェスティバルが10月28日から11月6日にかけて開催され、この劇場ほか、ハバナ市内4つの劇場を会場として様々な公演・イベントが行われた。今回は特にアリシアが創立した国立バレエ団誕生70年、アリシアの十八番「Giselle(ジゼル)」初演から75年の記念の年ということで、大々的に行われたらしい。小学生のころ、バレエを習っていた友達の発表会に行ったことはあるけれども本格的なバレエの公演は見たことないし、ハバナ大劇場にも入ったことないし、事前に知っていたら見に行ったのに・・・

青い空に生える美しい建物、アリシアアロンソ劇場

しかし、だ。キューバではこういったイベントの情報を得るのが非常に難しく、だいたい直前にならないとわからない、もしくは終わってからニュースを見て知る、ということが多い。特に関心があるもので、それについて常日頃からアンテナを張っていればどこかでキャッチできるのかもしれないが、日々の生活に追われ、たまーに何を思い立ったか文化的活動に参加してみようか、というぐらいのレベルじゃ気が付いた時にはすでに遅し。でもキューバ人たちはどこかでしっかり情報をキャッチして、チケット販売初日に列を作るし、イベント当日は大勢の人が集まる。

今回のフェスティバル開催前のチケット発売日にもたまたま劇場の前を通ったのだが、長蛇の列。中には「こんなおばちゃんがこんな格式高い劇場でバレエ見んのかー!」という人も。これはキューバの素晴らしいところのひとつだと思うが、

すべての国民に芸術を鑑賞する機会があたえられる(べき)

という考え方のもと、こういった公演のチケット価格はありえないほど安い。ハバナ大劇場の場合、席にもよるが10-30キューバペソ(約40〜120円)*。だから行く。その辺でサンダル履いて買い物してるおばちゃんも、パルケセントラルでツバ飛ばしながら大声で話しているおっちゃんも。そんな彼らもきっと公演当日は一張羅に身を包んで、香水の匂いプンプンさせて行くに違いない。TPOのわきまえっぷりが際立っているのがキューバ人。

アリシアのジゼルがモデルの像が玄関前に

というわけで今回バレエ公演は見られなかったが、公演のない日中は建物内を公開しているので入場してみた。スペイン語か英語のガイド付きで、小一時間かけてゆっくり見ることができる。建物全体のうち劇場スペースは約1/4ほどで、あとはギャラリーやイベント会場、会議室などとして利用されているそうだ。外観も素晴らしいが、中の装飾も大理石がふんだんに使われ、細かな彫刻やクリスタルのシャンデリア、モザイク模様の床、豪華絢爛宮殿の様相。

バレリーナの舞台裏をテーマにした写真展が開催中だった

10数年前に初めてハバナに来て以来、何十回も入口前を通って、何百回も目にしているだろうに実は初めて中に入った。建物はもちろんだが特に気に入ったのは、3階のベランダから見るカピトリオ。この高さ、この角度から見たことのないカピトリオ。さらに週末に行われるフラメンコ公演のリハーサルをやっており、こちらもしばし見学することができた。

いつもと違った目線でみるカピトリオ

ふと思い立って入ったわりに、知的好奇心が十分に満たされてものすごい得した気分になった。出口でこれから年末にかけての公演もチェック。今年最後の〆は「くるみ割り人形」だな、と密かに決めた。

 

*こういった公共の場への入場料等は、キューバ人価格と外国人価格が異なる。私のように永住権所持している場合もキューバ人価格適応。ハバナ大劇場での公演の場合、外国人価格は演目に関わらず、30CUC(約3,450円)。それでも、大編成のクラシックや世界一流のオペラ公演もこの価格で見られるのだから、超お得。今回私が行った劇場内見学は、キューバ人5キューバペソ(約20円)、外国人5CUC(約560円)。