2020年3月23日キューバ政府発表 Covid-19感染予防政策

1週間前になってしまうが、キューバ政府が発表したコロナウィルス対策の内容は以下の通り。日々変わる状況の中で、以下の内容は各関連省庁により内容が更新され、追加、具体的な政策が都度示されている。

3月30日現在キューバのコロナウィルス感染者数は139名(死亡3名)、感染の疑いがあるとして入院隔離中の患者は600名以上。キューバの場合、海外からの帰国者や症状がなくても濃厚接触した者は14日間隔離され、一定期間後これらすべての人に対して検査を実施し、陽性陰性の判明するようにしている。そのため陽性反応があり入院中でも、全く症状のない患者もいるそう。

やはり徹底した検査と各自の予防対策=外出を控えるが必要。

Quédate en casa. (家にいなさい)

  1. すべてのキューバ住民は、キューバ入国後14日間の隔離措置とする。
  2. キューバに到着する旅行者に対しては十分な情報を提供すること、滞在地や荷物の除菌をすること。旅行者は特定の交通手段で警察の誘導を受け、直接隔離センターへ移動する。
  3. 空港での家族の出迎えは禁止する。
  4. キューバへ到着する乗客は、空港手続きと隔離センターでの手配煩雑を軽減するため、預け荷物と手荷物それぞれ1個のみの携帯を許可する。
  5. キューバ人の出国は本人と家族の健康管理を考慮して制限され、人道支援やそれに相当する理由がある場合に限る。
  6. 未だホテルに滞在する観光客についても隔離措置をとり、外出を禁止する。また同時にカサパルティクラルに滞在する者は、観光センターへ移動する。
  7. 各地方、歴史、文化、自然名勝地へのツアー、および観光客用のレンタカーは中止する。
  8. これらの入国管理措置の発表以前、今週月曜(23日)以前に到着した者についても、各家庭で自主隔離する。この場合、彼らを地域社会に取り込んでこうした措置について十分に説明し、家族の責任のもとで健康状態の監視をすること。
  9. 隔離地域への立ち入りは厳重に禁止する。
  10. 家庭、施設にいる高齢者、特に一人暮らしの高齢者に対して十分な注意を払うこと。
  11. 通常販売につとめ、行列を避け、食料等の宅配サービスを推奨する。
  12. 地方間のバス、列車、飛行機の国営・民営交通機関を中止する。地域内の交通機関については要検討。
  13. これらの措置を実施するに当たって、都市内の警察による統制強化はやむをえない。
  14. ディスコ、プール、ジムを閉鎖し、またホテルでのレクリエーションを制限する。これらは国営民営の施設を問わない。
  15. バーやレストランの営業は制限される。客同士の距離は1m以上を維持し、それができない場合は営業停止もやむを得ない。
  16. 食料品の生産を強化し、現状を考慮して需要の少ない製品については停止し生産過程における人員削減を実施する。
  17. 地域組織や地方政府組織により各家庭の訪問を実施して十分な情報提供を行い、これらの措置の徹底し、それが行われない場合の対処をする。
  18. なんだかの症状が出た者は相当の施設へ出向くか、または医師の監視のもとに自宅にとどまること。
  19. 一時的に学校の本年度コースを停止する。
  20. 3週間の授業停止。状況が許せば4月20日から再開する。
  21. 伝染病の監視下、保育園については引き続き開園するが、子供を預けるかどうかは親の決定による。
  22. 入園許可の譲渡と適応期間の預けについては延期する。
  23. 家族の援助ない子供については、通常の預け先家庭に留まること。
  24. 3月30日よりTVにて教育番組の放映を行い、家庭学習の方向づけを実施する。
  25. 寄宿舎にいる学生は、直ちに帰省すること。
  26. 教員は授業の再開に向けて準備をすること。大学院生は各自の研究を進めること。
  27. 帰省先から戻る際の集中を回避するため、授業再開は段階を追って随時行う。
  28. すべての教育機関における事前コース、事後コース、昼間夜間、高等教育等含め、あらゆる教育活動を中止する。
  29. 寄宿舎に滞在できるのは、外国人留学生のみとする。
  30. ホテルにおける旅行者および労働者の医療的監視を強化する。
  31. 国民の医療的監視を強化する。
  32. 医療機関における手術を延期し、患者の生死を分けるような移植や癌、そのほか緊急手術のみの対応とする。
  33. 地域における医療機関外で可能な診察や、関連する内容の同時診察などを再考する。
  34. 病院への見舞いと付き添い者の禁止。
  35. 医薬品の処方箋の期限および医療ダイエット食品配給保証期間を6ヶ月延長する。
  36. 再就職の場は、当該地域のいかなる職種ともなりうる。
  37. 小学校、特別支援学校に通う子どもがいる母親の一時的休職に対しては、既存の政策に準じて行う:最初の1ヶ月は給与全額支給、2ヶ月目以降は60%支給を保証する。
  38. 裁判関連の事務所におけるすべての手続きを更新する。
  39. すべての納税者の税金および銀行機関への支払い義務を延期する。またこれらを携帯アプリによる送金やそのほかの電子送金を利用できるものとする。
  40. 自営業者の税務署への月額支払いを各々の被害状況に応じて減額を適応する。

(3月24日付グランマ誌参考)

キューバのコロナウィルス感染予防対策:マスクと手洗い

キューバでもコロナウィルス感染予防対策として推奨されているのは、マスクと手洗い。

もともとマスクをする習慣はないし、通常見かけるのは病院でドクターや看護師がしている緑のマスク。コロナ感染が心配されるようになってから、まず空港職員がみんなこの緑のマスクをするようになり「キューバではマスクといえば緑?!」と思っていたが、ここ数週間で、街中で一般市民のマスク着用が目立つようになると、色々なマスクを目にするようになった。日本でおなじみの使い捨てタイプ、工場で使う防塵用、即席ハンカチやバンダナ巻くだけ・・・

ハバナ市内で。( Image by Granma)

でも基本は布製、鼻と口を覆う程度の四角い布の両側に2本ずつ4本の紐が付いた頭の後ろで縛って固定するタイプ。コロナ予防用にこれが全国各地の縫製工場で増産されているらしい。それでもやはり不足するので、個人的に家庭で作って近所の施設や保育所に配っているというおばあさんが、ニュースになったりもしている。国を挙げて勧めるからには、ということで大統領や官僚たちもマスク着用で会議や会見に出る様子がTVで放映される。ということで、かなりの確率でハバナの街中ではマスク着用者が増えている模様。

マスクただいま増産中(Image by Granma)

各家庭や職場での手洗い推奨のほか、公共の場やレストラン、店舗へ入場時に手の消毒を強制されるようになった。入り口で消毒液(漂白剤を薄めたもの)が入ったペットボトルが置いてあり、これを各自が手に垂らしてパパッと消毒する。市販のボトルに入ったものでないところがキューバっぽい。これが薄めてあるとはいえ結構強い液体なのか、消毒後手のひらがちょっと赤くなって匂いもツンとキツイ。肌の弱い人や子供には無理だな。

ところで今回コロナウィルス予防対策として、様々なところで消毒液として使われる Cloro(漂白剤)が、配給所で緊急販売(1CUP= 約4円/1リットル)されることになったそう。掃除でも洗濯でも漂白剤大好きなキューバ人には嬉しい計らい。この漂白剤を求めていつもの行列する時には、くれぐれもマスク着用を!

キューバ近況 コロナウィルスCovid-19の影響

コロナウィルスCovid-19 が猛威を振るい、世界中が前代未聞の(少なくとも私が生きてきた半世紀では)大混乱。中国に始まり、日本含めてアジア諸国からヨーロッパへ感染拡大し、2月末になるとキューバでも国を挙げての予防キャンペーンが目立つようになり、それでも1ヶ月前までは、「遠くで起きていること」と楽観していた部分もあった。

3月11日にキューバでもコロナウィルスの感染者が確認され、日に日に感染者が増えていき、ついに今週3月24日からは外国人の入国禁止、学校が休校、国際線や地方を結ぶバス路線の運休、イベントの中止・・・と瞬く間に日常生活に様々な支障が出てくることになると、さすがに明日は我が身と心配。

観光客相手のレストランや土産物屋、博物館なども閉まり、キューバ名物クラシックのオープンカーは姿を消した。外出禁止令までは出ていないけれど、政府からは「不必要な外出は控えるように」と御達しがあったこともあり、街ゆく人も少ない。普段はべシート(頬にキス)して抱き合うキューバ式挨拶もなし、街角で大声で話す人や道で遊ぶ子供たちの姿は見えず、いつも満員のバスも空いている。なんと寂しいハバナの街。

ハバナの中心地、国立劇場の前いつもはクラシックカーがずらりと並ぶ。
今日のハバナ。寂しい・・・

ほんの2、3日前まであった普通の日常が目に見えないウィルスの脅威によって奪われる・・・映画の世界が現実になる恐怖。

今回のキューバ政府のとった措置は今後30日と発表されているから、これからしばらく続く非日常。家族と自分の健康を守るべく感染拡大防止に協力して、一刻も早く世界中で終息して、あたりまえが早く戻ってきますように。

キューバの夏休み 2019 Vol.2

先週に引き続き、今週末も近所の子供達と一緒に遠足第2弾。今回はハバナのプラジャ地区にあるIsla de Coco(ココナツ島)という名の遊園地とその隣でやっているサーカスへ。

12時集合、皆でバスを待つも来ず。1時間過ぎても来ず・・・真昼間で日陰も少なく、座って待つところもなく、さすがのキューバ人たちもイラっとしてきて、結局目的地付近が終点のバスをジャック(=無理やり貸し切り)にして行くことに。路線バスだからコースを外れると違法で捕まってしまうので、ハバナの外周をぐるっと回って1時間かけて到着。ついた頃には、ここ数日毎日のようにある夕立の雲が立ち込めていた。

遊園地入り口。

それでも子供達はダッシュで遊園地の遊具やおやつを売っている売店へ。遊園地といっても遊具は数える程しかなく、その中で動いているのは5つぐらいしかなく。

定番メリーゴーランドあり。
回転ブランコあり。

そのうち雨も降ってきて、早々に引き上げてサーカスのテントへ避難した。もうまもなく開演時間の4時というところでアナウンス。

サーカステント。残念ながら、中の様子は撮影禁止でなし。

「本日天候不順、特に雷は電気系統のシステムに影響があるので、誠に申し訳ありませんが開演を30分ほど遅らせます」

確かにものすごい雷だったので仕方ない、待つしかない。テント内はエアコンが効いていたのがせめてもの救いだった。

そのあとの公演もあるので、30分ぴったり遅らせて開演。時期的なものもあるし、娯楽が少ないキューバでもあるからテント内は満席だった。猛獣もでないし、空中ブランコや派手な演出はないけれど、キューバ国立サーカス劇団、国内でもトップレベルの芸人たちの技はそれなりに見応えがあって楽しめた。子供達が大好きなピエロも会場を盛り上げて、大人も一緒に大笑い。久しぶりに声を出してケラケラ笑って気分がよかった。

終演後、外へ出ると雨は止んでいた。今度は20分ほど待ってお迎えのバスがきたので、皆で乗り込んで我が家の団地まで。キューバらしく「待ち」の時間が長かったけれど、それも夏休みの1日、良い想い出。

キューバの夏休み 2019 Vol.1

年がら年中暑い常夏のキューバだけれど、この時期「夏」は特別。7、8月は国を挙げて夏を盛り上げる。子供向けはもちろん、大人たちも楽しめるイベントも多く催されるし、夏限定でビーチには飲食の屋台が出たり、安いホテルのパッケージツアーを国営旅行会社が販売したり、地区ごとにキャンプツアーが組まれたり。その年ごとに夏のキャッチフレーズも掲げられて、テレビCMではそれを連呼するコマーシャルソングが流れる。今年は、

¡Vívelo! (ビベロ!)

夏を生きろ!ぐらいの意味、どこかで聞いたことがあるような・・・

子供達の学校は6月中旬で授業は終わり、6月後半は試験のみ。7、8月の2ヶ月は丸々お休みという、親たちにとっては全くもって迷惑な話。この時期、親同士が顔を会わせると、

「どうよ夏休み、子供達は」

「昼飯作らにゃいけないし、たまにはどこかへ連れて行かないといけないし」

「まったくねー頭痛いわ!(Es un dolor de cabeza!)」

みたいな会話がされ、「頭が痛い」を連呼する。

こんなに長い夏休みなのに、大した宿題も出ない。我が家の息子もA4のコピー用紙に5枚ほど国語のプリントがあるだけ。けれど、それすらなかなかやろうとしない。2ヶ月ボーっと過ごした後の学校での勉強はさぞ辛かろうに、と思うし、こんなに勉強しなくて大丈夫なんだろうか、と心配なのだけど、親たちも「バケーションなんだから当たり前よ」とほったらかし。遅寝、遅起きも容認されて、朝から晩まで遊びたい放題。日本の夏休みの厳しさを思い出して、我が子はもう日本の学校へは適応できないと確信する。

そしてこんなに毎日遊んでいるのに、「退屈だー、どっか行こうよー」とのたまう。マイカーもない我が家ではビーチへバスで行くか、ハバナ旧市街あたりをぶらつくか、コッペリアへ行くかぐらいしか選択肢がないのだけれど、ありがたいことに週末は近所のおばちゃんが仕切って貸切バスでの遠足を企画してくれるので、ここ2週間はそれに参加した。

貸切バス。超年季の入ったボロボロバスだけど、みんなで一緒にお出かけは楽しい。

その第一弾は、ハバナ郊外空港の近くにあるエキスポキューバと植物園。子供達が遠足で行く王道で、これまでの学校の企画で何度も行っている。何度も行くほど素敵なところかというと全くそんなことはないのだけど、他にないから仕方がない。でも子供達は普段とちょっと違うシチュエーションで遊べればそれで楽しいから、まあいいか。

エキスポキューバはその名の通り、かつて万博が行われた会場をそのまま公園にしたもので、今でも定期的に各種展示会が催される。

写真ではよくわからないけれど、動力はトラクター。この知識豊富なガイドの説明が良かった。

植物園はだだっ広い公園内をトラクターが牽引する車両に乗り込み、ガイド付きで解説を聞いて園内を散策できる。中でもキューバに90種類以上あるという椰子の木のコレクションが売りで、これは世界に誇るものらしい。またキューバで唯一という日本庭園もあるのだが、ここ数年改修中で残念ながら見られなかった。

背の低いヤシの木
出っ腹のヤシの木
こうして見ると、本当に様々なヤシの木があるのがわかる。

最近は息子も多少は成長して、こういうこところで売られているどーしょーもないオモチャを買ってとせがむことも少なくなったのだけれど、今回ひとつだけおねだりされて許可したのが、入れ墨。もちろん本物ではなくて子供用にスプレーで色つけるだけのものだけど、最近の流行りなのか子供が行くとこ、イベントで必ずあるアクティビティーだ。パネルにある図柄から好きなの選んで、好きなところにシューシューと色を重ねる。「1週間はもつよ」という触れ込みだったが、翌日にはカスカスでなんの絵かわからなくなっていた・・・2CUC(約240円)なり。夏休みだから、まあいいか。

まずは好きな図柄を選んで
型を使ってスピレーで色付け
できあがり!

アーネスト・ヘミングウェイ国際カジキ釣り大会−Ernesto Hemingway Torneo Internacional de la pesca de la aguja

人生の後半の大部分の時間をキューバで過ごし、海と釣りとお酒が大好きでキューバを愛してやまなかった作家ヘミングウェイ。ハバナ市内には今でもヘミングウェイゆかりのホテルやバーがあり、観光名所として連日多くの人であふれている。生前ハバナ郊外に購入した屋敷は現在ヘミングウェイ博物館となって、作家が暮らした当時のままの様子を見学することができる。

ヘミングウェイ博物館には欧米からはじめ多くの観光客が訪れる。

ハバナから東へ車で15分ほどのところにある小さな町、コヒマルはヘミングウェイが釣りに出るための船を停めていたところ、いまでも毎日ここから漁師たちが船を出すのどかな漁村、『老人と海』の舞台を見に博物館とともに足を伸ばす人も多い。

現在のコヒマルの漁港。ハバナ近郊では最大の規模で、今も毎日多くの船がここから漁に出る。

そのヘミングウェイの名を持つマリーナが、コヒマルとはハバナを挟んで西、反対側の海岸にある。キューバでは最大規模の国際マリーナで、常に各国の船が停泊している。他のヘミングウェイ関連の名所に比べて普段観光客が訪れることは少ないが、1年に1度開催されるヘミングウェイ国際カジキ釣り大会は、世界各国の釣り好き達が集って賑やかなイベントだ。今年の大会は11カ国18チームが参加して6月10日から15日に行われた。69回目を迎えた歴史あるこの釣り大会に日本から初めての参加者があったのだが、なんとこちらのお客様のご招待で1日船に乗って参加することになった。

日本チームの船、ピラール1号。

これまでにもダイビングの時など1日船上で過ごす経験はあるものの、今回のような小さな船で「釣り」をしながらの船体験はない。カジキ釣りはもちろん船からの海釣り体験も初めて・・・大会前にトーナメントのルールを翻訳してその内容を知ったが、なにぶん釣り自体がほとんど未知の世界なので、よくわからない部分も多かった。釣りといえば釣り竿持って行うものだとばかり思っていたので、船に竿を固定して釣り糸とルアーを海中に流し、船を常に進めながらヒットするのを待つ、という釣りの方法があるなんて全く知らなかった。カジキ釣りは、カジキの特性を生かしたこのトローリングと呼ばれる方法で行われるのが一般的らしい。でも、これじゃあ釣り人の腕はどこで試されるんだ?

船に乗った当日。海は白波ひとつ立たない静かなもので、湖面を行くような穏やかさ。朝9時のスタート時に一斉に方々へ船が向かって行く様子は壮観だった。

競技スタートの合図とともに各船が一斉に沖に向かって進む。

しばらくは海から見えるハバナの景色を楽しんだり、真っ青な海の美しさにうっとりしたりしていたけれど、そのうち退屈してきた。釣りなんてそんなものだろうけど・・・午後には船長の横に座って、しばしおしゃべり。2階の操縦席で周辺をじーっと見回す船長は、漠然と針路を決めているわけではなく海の色、潮の流れ、海面に浮く海藻、鳥の群れといったものを観察しながら、魚のいる場所にあたりをつけて舵をとっていた。とすると、釣り人の腕ではなく船長の舵取りが一番の決め手なんじゃないか?

コヒマルからもう少し行ったあたりまで進めた後、Uターンして陸近くを並走するように航路をかえた。ハバナの街の中心が近い。こんな陸から近いところでカジキみたいな魚が釣れるのか?と思っていたその時、リールのひとつがザッーと音を立てて動き出した。その瞬間、船長、船員たちが素早く反応する。竿を外して釣り上げ担当の参加者に持たせ、定位置に座らせる。船長はまだ2階で舵を握ったまま。見習い中の若い船員を呼び、船長が魚を捕獲する瞬間に下へ降りた際の操縦の仕方を指示する。まだ獲物は船尾の先、釣り糸の先端に左右にもがきながら泳ぐ大きな姿が見えた。

船長と船員。10年来のコンビは息のあった様子でカジキを揚げる。ハバナが近い。

「ブルーマルリン(マカジキ)!」

水面近く少し飛び跳ねた瞬間に、その大きさがわかり驚く。

「1.5〜2mはあるぞ、でかい!」

まだ2階の操縦席にいる船長は、飛び跳ねて大喜び。

慣れない手つきで竿を持ち、必死でリールを巻く彼に冗談混じりでハッパをかける。

巨大なカジキを少しずつ寄せていく。ここを見るとやっぱり釣り。

もう直ぐそばに黒い影が近づいてきて、尖った口先の角が水面から顔を出し、全身で水面をバシャバシャと叩く。およそ30分弱。

船に近づいて暴れまくるカジキ。

「もう少し!」

と一瞬船の脇でその姿を見たか見ないかのうちに、口元のナイロンの糸が切れてサーっと水の中に消えてしまった。

「これでいいの?」と思ったが、そもそも釣り上げても写真記録だけとってキャッチアンドリリース、タグ付けも強制ではないので、規定通りに写真が撮れていればポイントとして加算される。一般の釣りに比べると物足りないような気もするが、競技としては合格の捕獲だった。

この日、日本チームはこの1匹のみ。でも18チーム中カジキをヒットして得点したのはわずか4チームで、暫定1位。その後、4日間の競技日程を終えて日本チームは2匹のマカジキ捕獲で第4位。初出場でしかも全員素人のチームで大健闘。全ては優秀な船長と船員のお陰とはいえ楽しい思いをさせてもらった。

それにしてもハバナの街並みをバックにマカジキとの格闘、想像以上に力強く、美しく、興奮。

 

ヘミングウェイ国際カジキ釣り大会。アメリカとの国交回復直後の2017年の大会は80チームほどの参加があり大盛況だったそうだが、今年は直前のアメリカ政府のキューバ対策(アメリカ人のキューバ渡航制限の強化)により、予定していたチームの不参加もあって数的には寂しいものだった。それでも3チームのアメリカからの参加、そのほか10数ヶ国の参加は国際交流という点でも意義のある大会といえる。ヨットクラブの支配人が「国と国の間に壁をつくるようなことをせずに、橋渡しとなるようなイベントに」と話してくれたのが印象的だった。高価な遊びではあるけど、ヘミングウェイの精神、キューバへ対する想いをつなぐこの大会、いろいろな意味で今後も途切れることなく続いたらいいな、と思う。

春休み、スペイン帆船見学とマレコン散歩―ハバナビエナール―

キューバの学校は9月が新学期の始まりで、年末年始に10日間ほどの冬休み、4月に1週間の春休みがあって、6月末が学年末と一応3学期制となっている。今年は4月15日から1週間が春休みだった。

休みの期間、親たちを悩ませるのは昼食の準備(小学校は一応給食がある)と退屈する子供たちの「どこかへ連れていってよ」攻撃。これといった娯楽がなく子供たちが楽しめる施設や公園も数知れているキューバでは、限られた子供を連れていく場所がものすごく混む。ハバナなら動物園、旧市街にある小さな遊園地、郊外のレーニン公園といったところか。自家用車がないから、そこへ行くための交通機関も混んでうんざりしてしまう。

見学のために長蛇の列!

幸いどこかへ行くより近所の子供達と一緒にいるだけで楽しい我が子は、朝から晩まで本当によく遊んでくれて助かった。それでもちょっとはお出かけしようか、と行ったのがハバナ湾に入港して数日間滞在していたスペイン海軍学校の訓練船、Juan Sebastian de El Cano(フアン・セバスティアン・エル・カノ)号の一般公開見学と、マレコンを中心に開催されているハバナビエナール(造形作品の屋外展覧会)。

スペイン国旗がキューバの青い空に映える。植民地時代を彷彿?!

Juan Sebastian de El Cano号は1927年造船の帆船。見学時はもちろん帆は張ってなかったのだけど、歴史を感じる船体は美しく丸ごと芸術作品。ちょうど入港時にハバナ湾の入り口付近を走行する姿を見たけれど、それは素敵でうっとりするほどだった。

ハバナビエナール、5月18日まで開催中。

ハバナビエナールは国内外の造形作家たちによってマレコン沿いのあちこちにアートが出現、いつものマレコン散歩がいっそ楽しくなるイベント。この日は波が少々高くて海側のアートは波しぶきがかかってしまっていたけれど、真っ青な海と空の下、カラフルなアートが映えた。

さあて、この休みが終わったら学年終了まで2ヶ月半。そのあとは長すぎる夏休みが待っている。

キューバで空手

我が家のある団地内にはサッカーと野球が一度にできるほどの広い運動場にプール、バレーとバスケットコート、さらにレスリングにボクシングといった屋内競技用施設とスポーツするには申し分ないスペースがあり、その一角に空手の道場もある。「空手道」「松林流」としっかり漢字で書かれた看板に加え、「OKINAWA」「DOJYO AKITO YAMANE」とあるから明らかに日本がルーツだとわかるので、気にはなっていたけれど、これまで詳しいことを調べようとしなかった。

団地の道場入り口。

今年になって息子がこの道場で空手を習い始めた。生徒は小学生から成人まで、「先生(センセイ)」はキューバ人だけど、日系註)の方もいらっしゃる。練習は週に2回、夕方1時間ほど。自分でやりたいと言っておきながら、習い事に通うことに慣れていない息子は最初のうち友達を遊ぶ時間が減るのが嫌だったようだけど、最近は進んで行くと言い家でも「形」の練習をするようになった。

この週末、普段の練習とは別に簡単なデモンストレーションをやるというので見に行った。先週、日本から届いたばかりの真っ白な空手着を着てやる気が増した息子は、覚えたばかりの初心者向けの「普及形 I(ふきゅうかたいち)」をみんなと一緒に披露した。その後、大人は武具を使った形や二人で即興での組手も見せてくれた。空手といえばカンフー映画のイメージぐらいしかなく、実際に見たのはこれが初めてだった。

「形」の披露をする生徒たち。

そして日系の「センセイ」の一人から、この道場の由来についてもちょっとお話を聞くことができた。道場の名前にある沖縄出身の日系人「AKITO YAMANE」さんはかつてこの団地に住んでいて、団地のすぐ近くにある海軍病院のお医者さんだったそう。そのYAMANE さんが亡くなった時に、本当は沖縄に遺灰を持って行きたかったそうだけど日本はあまりに遠く、結局この団地内で葬られた。ちょうど同じ頃団地内にできた沖縄空手の道場ということで彼を偲んでその名前が付けられた。これが今から50年ほど前のこと・・・

せっかくなので少し調べてみたところ、空手そのものが19世紀に沖縄で生まれたものだという。その起源は15世紀琉球発祥の「手(テイ)」と呼ばれる武術にさかのぼり、東南アジアや中国との交流の中で空手として発展していった。それがのちに本土に渡り、競技要素を持って広まったそう。沖縄伝統空手にはいくつか流派があるようだけど、あくまでも素手で攻撃、防御する武術でスポーツ=競技ではないらしい。現在は武道の一つ、護身術として学ばれるものだという。

武道であるので当然礼儀は大切にされ、うちの団地の教室でも道場に入る前にはお辞儀、先生にもお辞儀してはじめの挨拶、終わりのお礼、途中の掛け声は日本語。子供を通わせる父兄たちからは「礼儀、規律」と言ったことも教えてくれるのがいい、という声も聞かれる。確かにキューバの学校では、日本のような校則もなければ部活でバシバシ先生にしごかれる(最近はあまりないようだけど)こともないものね。

蹴りが得意らしい・・・

息子は日本語で数字を言ったり、挨拶したりするのがなぜだか「恥ずかしい」らしい。どこからみてもアジア人、教室唯一の日本ルーツの生徒ということで、注目度も高い(?)わが子よ、ちゃんと黒帯取るまでまで頑張れー!

 

註)あまり知られていないがキューバにも日系人がいる。ペルーやブラジルのように大きなコミュニティーはないが、首都ハバナと青年の島に比較的多く住んでいる。

現在もキューバ各州に日系人が暮らしている。

キューバ人は行列が好き?!

先週、どこで何に触ったのかわからないが、両ふくらはぎがかぶれた。見るも無残だし、痒いしで2日目に病院へ行き薬を処方してもらった。キューバは医療費が無償で、地区ごとにポリクリニコと呼ばれる診療所があって「とりあえず」というときは、そこへ行く。我が家からも徒歩1分にあるポリクリニコで、当直の先生に診てもらい処方箋を出してもらって、いざ薬局へ。薬は無料ではないが格安で入手できる。

薬局前、ぱっと見誰が行列についているのかわからないけど、いつも長時間待たされる。

これまた歩いて1分の薬局へ行ったが、朝も早よから大勢の人が列をなして待っている。

「¡Ultimo! (ウルティモ)」=「最後の人誰?」

と大声を張り上げて行列の最後尾を探す。

キューバでは独特の行列の作り方があって、行列しているところに並ぼうと思ったらまずこうやって最後尾の人を探す。

「Yo(ジョ)」=「私」

と誰が行列の最後か確認できたら、

「¿Detrás de quién va(デトラス デ キエン バ)? 」=「誰の次?」

と尋ねて自分の前の前の人まで確認する。

そして自分の次に並びたい人が「¡Ultimo! (ウルティモ)」=「最後の人誰?」とやってきたら、「Yo(ジョ)」=「私」と答えて最後尾をバトンタッチ・・・

といった具合で列がなされる。

無事、列について待つこと約30分、私の順番がやってきて薬を買うことができた。

 

この行列の作り方のいいところ、便利なところはいくつかある。

例えば、バス停などで待つ場合。キューバのバス待ちの人の多さは半端ではないし、屋根付きベンチ付きのバス停なんてなかなかない。だから自分の順番さえ確保したらあとは日陰で、あるいは適当なところに座って待つことができる。バスがきたら自分の前の人を探してその後ろにつけば、きちんと行列再生!

バスがくると、行列再生。

他にもあまりに待ち時間が長くなって、ちょっと近所で他の用事をすませたい時は、後ろの人に「ちょっと抜けるし」と声かけて隣の店で買い物すませてくる、なんてことも可能。

これが他の国や地域であるのか知らないけれど、非常に良いやり方だといつも感心する。またこのルールをしっかり守れるキューバ人は、なかなかお行儀がいいとも思う。

 

それにしても毎日の生活で、街の中で、行列を見ない日がない。ハバナには行列が名物になっている場所もたくさんある。

ベダードにある国営アイスクリーム屋さん、コッペリア。季節を問わず連日行列。敷地を取り囲むようにぐるりと列ができる。

コッペリア、いつ行っても凄い人!

国営電話会社(エテクサ)、両替所(カデカ)の前もいつもたくさんの人。

本日、エテクサ前の行列は少なめ。

旧市街のスペイン大使館の行列も半端ない。旧市街にあって観光客の目にも付きやすいので、皆、驚く。平日の午前中は大使館前の歩道が人の群で埋まってしまうほどで、歩行者の邪魔にならないように警備の人たちが群衆に指示を出して行列整理。

スペイン大使館前はいつもギョッとするほどの人!

スペイン大使館の行列の理由は、キューバがスペイン領であったため自分の先代がスペインから移住してきたことを示す書類が揃えば、スペイン国籍が取得できるから。その手続きのために連日わんさか人が訪れる。スペインに移住しなくとも、スペイン国籍=スペインパスポートを取得すれば、多くのキューバ人が夢見る「外」の世界を見るチャンスがぐっと増す、というわけ。そのためには前日深夜からでも並ぶ。でも行列して失う時間をお金で買うこともでき、それを商売にしている輩もいる。つまり順番待ちを代行して、それを売買するのだ。実際には前日午後には翌日の行列ができ始め最初の何人かは整理番号が渡されるそうで、この順番をゲットしてそれを売るという闇の代行業があるそう。自分のために前日から並ぶ人もいる中、整理券を高額で買って「横入り」する人がいたら、揉めるだろうな、と思うけど・・・

 

このほか、キューバらしいのが配給所の行列。普段の配給所は意外にもひっそりしていることが多いのだけど、あるものが入荷した時にはものすごい行列ができる。だから行列ができていたら「おっ、何か入ったな」とわかるのだ。行列ができる配給品代表は鶏肉とタマゴ。不定期に入荷するので、入ったとわかると皆、我先に行列へ。この時ももちろん「ウルティモ(最後は誰)?」のルールで列を作って待つ。

それからキューバではある品物が街中から消えることがよくあるので、それが再度入荷して販売された時にもすごい列ができる。最近ではサラダ油が消えた。いまだに不足していて我が家の在庫もほぼなくなっている。

さて、今日見る行列の先にサラダ油はあるかしら・・・

ハバナで話題のレストラン、Doña Alicia(ドニャ・アリシア)

キューバには飲食店でも国営のもの、民営のものがあって民営レストランをParadar(パラダール)と呼ぶ。と言ってもの看板に「Paradar」と掲げている店はほとんどないし、国営のレストランも「うちは国営」とうたって商売はしていないので、これらをパッと見て見分けるには難しい。一概には言えないけれど、裏通りや不便な場所にあって規模が比較的小さく内装が今風でお洒落なのはパラダール、広場や観光客のよく通る道に面した大きめのコロニアルな建物を使いキャパも多めなのだけど、内装はイマイチセンスなく古めかしいのが国営レストラン、といったところか。料理の質やサービスは間違いなくパラダールの方が良い。

ところで少し前から気になっていたパラダールがあった。

セントロハバナ、Sagrada Corazón de Jesús(サグラダ・コラソン・デ・ヘスス)教会の数件隣、時間や曜日関係なく午後はいつも店の前に多くの人が待っている店Doña Alicia(ドニャ・アリシア)。客のほぼ100%がキューバ人。

お店の看板。アリシアおばさんは実在した方らしい。

最近はパラダールも観光客だけのものではなくて、「ちょっと外食でもしようか」とキューバ人達が足を運ぶような店が増えたように思う。食に対して冒険をしないキューバ人、人気なのは安くてがっつりキューバ料理を食べられる店。

だからこの連日大賑わいのレストランもきっとそういう店だろうと思い、夫を誘って先日平日の昼間に行ってみた。12時ちょうどに到着、幸いまだ店内は空席があってすぐに案内され着席。

座ってすぐに驚いたのは、各テーブルに備え付けられたタブレット。なんとタッチパネルにメニューが提示され、オーダー、お会計と全てできるシステム。

表示はスペイン語だけど写真があるから、言葉がわからなくても安心。

「日本の居酒屋か回転寿司じゃん!!!!」

ワクワクしながらパネルをタッチしてメニュー拝見。一般的なキューバ料理に加え、キューバ人が大好きなピザとパスタから甘いデザートまで種類も豊富だった。各メニューはもちろん写真付きで、人気度数が星で表示、本日提供できないものは「只今できません」とはっきり表示。これは観光客にもありがたい。料金は旧市街のパラダールより若干安め、比較的良心的。料理のボリュームはびっくりするほど多くないけれど、味はザ・キューバ料理。副菜もささやかな野菜に揚げ物で決まり。盛り付けはちょっとカフェ風でよろしかった。

キューバ料理をカフェ風に盛り付けるとこうなる。

 

数日後。夫と二人でDoña Aliciaへ行ったことが子供にバレてしまい、同じ週の土曜日ランチもこちらですることになった。

「週末だし、すごい待たされるんだろうなあ。」

と覚悟して向かいいざ行列へ。先日は並ばなかったので気がつかなかったが、ドアマンがちゃんと名前と人数をきいてチェックし、順番に案内してくれるようなっていた。しかもこの順番待ちをしている人たちの名前リストが外の大きなディスプレイパネルに表示され、おおよその待ち時間も予想できた。またこのディスプレーにはメニューも順次表示されて待ち時間を飽きさせない。

いつも店の前には大勢の人が待ってる。

さらに先日は店内手前の席だったので気が付かなかったけど、店の中央を仕切る壁付近には小さな子が遊ぶスペースが設けられていて、親達は店内を駆けまわる子供を野放しにしなくてすむ。

トイレも自動で電気がつくし(いつものように電気を探してしまい店員さんに教えられた。うちの子も「電気がなーい!」と言って戻ってきた)、手を乾かすドライヤーも設置されているし(これは最新のパラダールには時々ある)。

すごーいなキューバ、いつの間にか日本並みのサービスが導入されている(むちゃくちゃピンポイントだけど・・・)

うちの子は生まれた時からタッチパネルのある時代の子なので、席に着くなりパネルを操作、キューバで日本の回転寿司と同じようにオーダーできると知って大喜び。そしてこそって聞いてきた。

「ねえ、どうやってでてくるの?回ってくる?」

さすがにまだ回転マシーンは導入されていない。

内装はファミレス風?

料理の味はまずまず、正当なキューバ料理。でも人気の秘密はキューバ初のサイバーレストランだからだと知って納得。しばらくは混雑するだろうな。

 

Doña Alicia

住所:Ave.Salvador Allende(Carlos Ⅲ)esq.Padre Varela(Balascoaín), Centro Habana、サグラダ・コラソン教会近く

営業時間:12:00-1:00