アーネスト・ヘミングウェイ国際カジキ釣り大会−Ernesto Hemingway Torneo Internacional de la pesca de la aguja

人生の後半の大部分の時間をキューバで過ごし、海と釣りとお酒が大好きでキューバを愛してやまなかった作家ヘミングウェイ。ハバナ市内には今でもヘミングウェイゆかりのホテルやバーがあり、観光名所として連日多くの人であふれている。生前ハバナ郊外に購入した屋敷は現在ヘミングウェイ博物館となって、作家が暮らした当時のままの様子を見学することができる。

ヘミングウェイ博物館には欧米からはじめ多くの観光客が訪れる。

ハバナから東へ車で15分ほどのところにある小さな町、コヒマルはヘミングウェイが釣りに出るための船を停めていたところ、いまでも毎日ここから漁師たちが船を出すのどかな漁村、『老人と海』の舞台を見に博物館とともに足を伸ばす人も多い。

現在のコヒマルの漁港。ハバナ近郊では最大の規模で、今も毎日多くの船がここから漁に出る。

そのヘミングウェイの名を持つマリーナが、コヒマルとはハバナを挟んで西、反対側の海岸にある。キューバでは最大規模の国際マリーナで、常に各国の船が停泊している。他のヘミングウェイ関連の名所に比べて普段観光客が訪れることは少ないが、1年に1度開催されるヘミングウェイ国際カジキ釣り大会は、世界各国の釣り好き達が集って賑やかなイベントだ。今年の大会は11カ国18チームが参加して6月10日から15日に行われた。69回目を迎えた歴史あるこの釣り大会に日本から初めての参加者があったのだが、なんとこちらのお客様のご招待で1日船に乗って参加することになった。

日本チームの船、ピラール1号。

これまでにもダイビングの時など1日船上で過ごす経験はあるものの、今回のような小さな船で「釣り」をしながらの船体験はない。カジキ釣りはもちろん船からの海釣り体験も初めて・・・大会前にトーナメントのルールを翻訳してその内容を知ったが、なにぶん釣り自体がほとんど未知の世界なので、よくわからない部分も多かった。釣りといえば釣り竿持って行うものだとばかり思っていたので、船に竿を固定して釣り糸とルアーを海中に流し、船を常に進めながらヒットするのを待つ、という釣りの方法があるなんて全く知らなかった。カジキ釣りは、カジキの特性を生かしたこのトローリングと呼ばれる方法で行われるのが一般的らしい。でも、これじゃあ釣り人の腕はどこで試されるんだ?

船に乗った当日。海は白波ひとつ立たない静かなもので、湖面を行くような穏やかさ。朝9時のスタート時に一斉に方々へ船が向かって行く様子は壮観だった。

競技スタートの合図とともに各船が一斉に沖に向かって進む。

しばらくは海から見えるハバナの景色を楽しんだり、真っ青な海の美しさにうっとりしたりしていたけれど、そのうち退屈してきた。釣りなんてそんなものだろうけど・・・午後には船長の横に座って、しばしおしゃべり。2階の操縦席で周辺をじーっと見回す船長は、漠然と針路を決めているわけではなく海の色、潮の流れ、海面に浮く海藻、鳥の群れといったものを観察しながら、魚のいる場所にあたりをつけて舵をとっていた。とすると、釣り人の腕ではなく船長の舵取りが一番の決め手なんじゃないか?

コヒマルからもう少し行ったあたりまで進めた後、Uターンして陸近くを並走するように航路をかえた。ハバナの街の中心が近い。こんな陸から近いところでカジキみたいな魚が釣れるのか?と思っていたその時、リールのひとつがザッーと音を立てて動き出した。その瞬間、船長、船員たちが素早く反応する。竿を外して釣り上げ担当の参加者に持たせ、定位置に座らせる。船長はまだ2階で舵を握ったまま。見習い中の若い船員を呼び、船長が魚を捕獲する瞬間に下へ降りた際の操縦の仕方を指示する。まだ獲物は船尾の先、釣り糸の先端に左右にもがきながら泳ぐ大きな姿が見えた。

船長と船員。10年来のコンビは息のあった様子でカジキを揚げる。ハバナが近い。

「ブルーマルリン(マカジキ)!」

水面近く少し飛び跳ねた瞬間に、その大きさがわかり驚く。

「1.5〜2mはあるぞ、でかい!」

まだ2階の操縦席にいる船長は、飛び跳ねて大喜び。

慣れない手つきで竿を持ち、必死でリールを巻く彼に冗談混じりでハッパをかける。

巨大なカジキを少しずつ寄せていく。ここを見るとやっぱり釣り。

もう直ぐそばに黒い影が近づいてきて、尖った口先の角が水面から顔を出し、全身で水面をバシャバシャと叩く。およそ30分弱。

船に近づいて暴れまくるカジキ。

「もう少し!」

と一瞬船の脇でその姿を見たか見ないかのうちに、口元のナイロンの糸が切れてサーっと水の中に消えてしまった。

「これでいいの?」と思ったが、そもそも釣り上げても写真記録だけとってキャッチアンドリリース、タグ付けも強制ではないので、規定通りに写真が撮れていればポイントとして加算される。一般の釣りに比べると物足りないような気もするが、競技としては合格の捕獲だった。

この日、日本チームはこの1匹のみ。でも18チーム中カジキをヒットして得点したのはわずか4チームで、暫定1位。その後、4日間の競技日程を終えて日本チームは2匹のマカジキ捕獲で第4位。初出場でしかも全員素人のチームで大健闘。全ては優秀な船長と船員のお陰とはいえ楽しい思いをさせてもらった。

それにしてもハバナの街並みをバックにマカジキとの格闘、想像以上に力強く、美しく、興奮。

 

ヘミングウェイ国際カジキ釣り大会。アメリカとの国交回復直後の2017年の大会は80チームほどの参加があり大盛況だったそうだが、今年は直前のアメリカ政府のキューバ対策(アメリカ人のキューバ渡航制限の強化)により、予定していたチームの不参加もあって数的には寂しいものだった。それでも3チームのアメリカからの参加、そのほか10数ヶ国の参加は国際交流という点でも意義のある大会といえる。ヨットクラブの支配人が「国と国の間に壁をつくるようなことをせずに、橋渡しとなるようなイベントに」と話してくれたのが印象的だった。高価な遊びではあるけど、ヘミングウェイの精神、キューバへ対する想いをつなぐこの大会、いろいろな意味で今後も途切れることなく続いたらいいな、と思う。

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